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 空間群を使って結晶構造を組み立てるとき、原点選択 (Origin choice) という概念があります。単位格子の原点座標の選び方が2つある一部の空間群において、注意しなければいけない概念です。

 単位格子とは独立な格子並進ベクトルを三辺とするような格子のことです。ベクトルの原点座標(始点)をどこと考えようが、それによって結晶の性質は何ら変化しません。とはいえ単位格子の原点の選び方に個人差があると、無用な混乱が生じてしまいます。対称操作として格子並進しかないケース(=空間群\(P1\))であれば好き勝手に選ぶしかありませんが、残りの229個の空間群は他の対称操作(回転・回反・らせん・映進)も有しており、それらは空間中に離散的に存在しています。このような(並進以外の)対称操作の空間配置を単位格子の原点位置と結び付けて考えた方がきっと混乱が少なるだろう、と昔の偉大な結晶学者たちは考えました。現在普及している国際標準 (=IUCr[国際結晶学会]策定)の単位格子原点の選び方は、以下の二つの方針でまとめることができます。

  • 方針1: その空間群の最高のサイトシンメトリーの位置を原点として選ぶ
  • 方針2: \(\bar{1}\) (対称心)を有する空間群の場合は \(\bar{1}\) の位置を原点として選ぶ

 サイトシンメトリーとは、結晶中のある点から周りを見渡した時、どのような点対称性があるかを示しています。ほとんどの空間群では上記2つの方針によって原点をただ一つに決めることができます。すなわち、\(\bar{1}\) (対称心)を有しない空間群であれば方針1に従うだけであり、有する空間群であっても方針1と方針2がしめす場所は同じであることが多い、ということです。ただ、方針1がしめす位置と方針2が示す位置が異なってしまうような空間群もあります。そうです、これがOrigin choiceです。

 たとえば空間群 \(Pmmn\) において、もっとも高いサイトシンメトリーは \(mm2\) です。この位置には2回回転操作が存在し、さらにミラー2枚が交差しています。これを原点とするのがOrigin choice 1です。また、\(mm2\) の位置から \((\frac{1}{4} \frac{1}{4} 0)\) だけずれた位置に \(\bar{1}\) (対称心)もあります。この位置を原点とするのがOrigin choice 2です。


上に空間群\(Pmmn\)のOrigin choice 1と2の対称操作の配置を示しました。左上の\(“o”\)の位置が原点になります。\((\frac{1}{4} \frac{1}{4} 0)\)だけずれた関係になっているのが分かりますね。

 このような二つの原点セッティングを考慮しなければいけない空間群は、直方晶系・正方晶系・立方晶系のいずれかに属しており、全部で24個あります。以下に全てを羅列します。

直方晶系 (Orthorhombic)点群 \(mmm\)\(Pnnn, Pban, Pmmm, Ccce, Aeaa, Fddd\)
正方晶系 (Tetragonal)点群 \(4/m\)\(P4/n, P4_2/n, I4_1/a\)
点群 \(4/mmm\)\(P4/nbm, P4/nmm, P4/ncc, P4_2/nbc, P4_2/nnm\)
\(P4_2/nmc, P4_2/ncm, I4_1/amd, I4_1/acd\)
立方晶系 (Cubic)点群 \(m\bar{3}\)\(Pn\bar{3}, Fd\bar{3}\)
点群 \(m\bar{3}m\)\(Pn\bar{3}n, Pn\bar{3}m, Fd\bar{3}m, Fd\bar{3}c\)

 繰り返しになりますが、Origin choice が1でも2でも、結晶の性質が変わるわけではありません。どちらで表現しても構いませんが、もし相転移(空間群変化)を伴うような現象を議論する場合は対となる空間群の原点と整合性のあるOrigin choice を選ぶのが良いでしょう。

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Stupidity has a certain charm; ignorance does not. Frank Zappa