結晶系・ブラベー格子

結晶系(Crystal system) に関するトピック

 三次元の結晶系は次のように分類されます。

三斜晶系単斜晶系直方晶系三方晶系
六方晶系
正方晶系立方晶系
3辺は直交しない3辺のうち1辺 (\(b\)) が残り2辺と直交する3辺は互いに直交する2辺 (\(a,b\)) は120°で交わり長さが等しく、残り1辺 (\(c\)) と直交する3辺は直交し、そのうち2辺 (\(a,b\)) の長さは等しい3辺は直交し、長さはすべて等しい

一見すると、単位格子の形状で分類されているように思うかもしれませんが、そうではありません。結晶の持つ並進以外の対称性と両立しうる形状という観点で分類されています。さて、こんなことはどの教科書にも書いていることなので、もう少しニッチな話題を提供します。

二斜晶系はなぜないのか

 なぜ三斜晶系と単斜晶系があるのに、「二斜晶系」はないのでしょうか?「二斜晶系」の単位格子を言葉通り解釈すれば、αは90°だがβやγは90°ではない、という単位格子ですね。このような平行六面体は、一見すると三斜晶系の場合と比べて対称性が高くなったように感じるかもしれません。しかしよく考えると、この形状を不変に保つ操作は1回転あるいは1回反のみであり、2以上の次数の回転・回反操作は許されません。つまり、対称性という観点からは三斜晶系と同じなのです。たまたまα=90°だったとしても、その結晶はあくまで三斜晶系です。

三方晶系と六方晶系の違い

 同じ単位格子の形状なのになぜこの二つを分けなければいけないのか、不思議に感じたことはないでしょうか。別ページに詳しく書きましたので、ご覧になってください。

正方晶系・立方晶系と4回回転

 正方晶系や立方晶系に属する結晶の形状について想像してみてください。「正方」とか「立方」という言葉が含まれますから、どうしても正方形や立方体的な形状、すなわち4回回転操作を含むような形状を思い浮かべてしまうのではないでしょうか。もちろんそういう結晶もあるのですが、全く正方形的な要素のない場合もあります。例えば、立方晶系でも以下のような結晶形状はあり得ます。

[ここに画像]

正方晶系や立方晶系だからと言って4回回転操作を含むとは限らない、ということに注意しましょう。


複合格子

 単位格子 (unit cell) とは空間中の独立な3つの並進ベクトルを三辺とするような平行六面体のことです。単純 (primitive) 格子とは、平行六面体の体積が最小となるように並進ベクトルを選んだ時の単位格子です。単純格子の各頂点は格子点であり、それ以外の格子点はありません。

 一方、複合 (complex) 格子とは最小ではなくあえて大きな体積を選んだ単位格子のことです。複合格子の格子点は、各頂点に加えて、面の中心や格子の中心など存在します。なぜわざわざ大きな体積を選ぶのかといえば、「結晶系」で単位格子形状を分類することを優先し数学的な表現を簡潔にしたいからです1

単純格子

 複合格子は結晶系を意識してあえて大きな体積を選んだ格子なわけですが、むやみに大きな体積をとってしまうとむしろ利便性が失われます。意味のある複合格子の取り方は、以下の三種類に限られます。

  1. 体心格子 (\(I\)) : 単位格子の中心に格子点が存在
  2. 底心格子 (\(A, B, C\)) : 単位格子のある面の中心に格子点が存在
  3. 面心格子(\(F\)): 単位格子の全て面の中心に格子点が存在

体心格子

底心格子

面心格子

底心格子は、軸\(a,b,c\)との関係を記号で表現します。例えば 底心格子\(A\)とは、\(b/2+c/2\)に格子点が存在することを表します。

 次に、それぞれの複合格子について単純格子との幾何学的関係を見ていきましょう。

体心格子

 体心格子は格子内に2つの格子点 (白丸)を含みます。左図では格子点が合計9つ描かれていますが、頂点の格子点がこの格子に寄与するのは1/8だけだと考えて下さい。また、格子点と原子の場所が一致するわけではないことにもご注意ください。体心格子はあえて大きく選んだ単位格子ですから、当然単純単位格子にも変換できあます。右図のように、体心格子を4つ並べ、濃黒線で示したような格子を選ぶと、体積が半分の単純単位格子になることが分かります。

体心格子

体心格子 ➡ 単純格子

底心格子

 底心格子も格子内に2つの格子点 (白丸)を含みます。左図のように単位格子の六面のなかで、対となる二面のそれぞれの中心に格子点が存在します。右図のように、底心格子を2つ並べ、濃黒線で示したような格子を選ぶと、体積が半分の単純単位格子になることが分かります。

底心格子

底心格子 ➡ 単純格子

面心格子

 面心格子は格子内に4つの格子点 (白丸)を含みます。左図のように単位格子の全ての面の中心に格子点が存在します。右図のような濃黒線で示したような格子を選ぶと、体積が1/4の単純単位格子になることが分かります。

面心格子

面心格子 ➡ 単純格子


ブラベー格子(Bravais lattice)

 ブラベー格子は、対称性を考慮した空間格子です。

三斜晶系

三斜晶系のブラベー格子には、単純格子しかありません。なぜなら、三斜晶系の並進を含まない対称操作は\(1\)あるいは\(\bar{1}\)のみであり、あえて体心格子や面心格子を取ったとしても全く旨味が無いからです。

単純三斜格子 (\(aP\))

単斜晶系

 三斜晶系のブラベー格子は、通常は\(b\)軸を主軸として、単純格子と底心格子があります。体心格子や面心格子の単斜晶系は、適当な軸変換によって底心格子と等価になってしまうため、わざわざ分類することはしません。ただし、なんらかの事情があって、あえて別の軸を主軸としたり、底心格子ではなく体心格子を取ったりすることもあります。このような変換については別ページで説明しています。

単純単斜格子 (\(mP\))

底心単斜格子 (\(mC\))

直方晶系

 直方晶系のブラベー格子は、単純格子、底心格子、体心格子、面心格子の全てがあります。

単純直方格子 (\(oP\))

体心直方格子 (\(oI\))

底心直方格子 (\(oC\))

面心直方格子 (\(oF\))

三方晶系, 六方晶系

 三方晶系と六方晶系のブラベー格子は、\(c\)軸を主軸として、単純格子と菱面格子があります。菱面格子は三方晶系にのみ現れる格子であり、体心格子や面心格子と同じく複合格子の一種です。もちろん菱面格子も単純格子に変換することができます。菱面格子の幾何学については、別ページをご覧ください。

単純六方格子 (\(hP\))

菱面六方格子 (\(hR\))

正方晶系

 正方晶系のブラベー格子は、\(c\)軸を主軸として、単純格子と体心格子があります。底心正方格子は、単純正方格子と取り直すことができるので、分類されません。面心正方格子は、体心正方格子と取り直すことができるので、分類されません。

単純正方格子 (\(cP\))

体心正方格子 (\(cI\))

立方晶系

 立方晶系のブラベー格子は、単純格子、体心格子、体心格子があります。底心立方格子は、[111]方向に存在する3回回転操作に反するため、存在しません。

単純立方格子 cP

体心立方格子 cP

面心立方格子 cP


  1.  もし複合単位格子の概念を導入しなかったら、例えば「2回回転軸が存在する結晶なのに直角柱形状の単位格子をとれない」といった状況が生じ、その結晶の構造や物性を理解する際に(不可能ではないものの)大変な労力を強いられることになります。 ↩︎
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