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三方晶系と六方晶系の区別

 「三方晶系」と「六方晶系」はどちらも\(a=b,\,\, \alpha=\beta=90°,\,\, \gamma=120°\)の単位格子定数をもつ晶系です。 両者を区別する基準は、記号に \(3\) が出てくるか、\(6\) が出てくるか、ということではありません。例えば点群 \(\bar{6}\) は六方晶です。\(\bar{6}\) ( \(6\) 回回反)という操作は\(3/m\) ( \(3\) 回回転と鏡面)という操作と等価ですが、\(3/m\)と表記したとしても三方晶系に含めてはいけません。

 「三方晶系」と「六方晶系」の区別の本質は、Rhombohedral (菱面)格子をとれるかどうか、ということです。これだけで理解できる人は大変優秀ですが、念の為もう少し詳しく解説します。。

 「三方晶系」と「六方晶系」には12の点群があります。そのすべての点群について、「底面が正六角形の直角柱」の面の模様を塗り分けることで対称性を表現できます。実際に塗り分けた図形を以下に示します。



「底面が正六角形の直角柱」を3分割すると、以下のように底面が菱形の直角柱が得られます。単位格子表現でいえば\(a=b, \alpha=\beta=90°, \gamma=120°\)です。これ以降はこの格子を六方格子と呼びます

点群に並進操作を加えたものが空間群ですから、「三方晶系」と「六方晶系」に属する結晶はすべて上のような \(a=b, \alpha=\beta=90°, \gamma=120°\)の形状の単位格子を持つことができます。

 「三方晶系」に属する点群は上記の立体に加えて、「立方体を、一つの体対角線方向に引き伸ばした(あるいは押し縮めた)形状」(菱面体)でもその対称性を表現することができます。実際に塗り分けた図形を以下に示します。

この菱面体は単位格子表現でいえば\(a=b=c,\,\, \alpha=\beta=\gamma\) (すなわちR [Rhombohedral] 格子)です。以降はこの格子を菱面格子と呼びます。三方晶系の結晶は、六方格子だけでなく菱面格子の単位格子を持つこともできるわけです。一方、菱面体の各面をどのように塗り分けたとしても、六方晶系に属する点群の対称性を表現することはできません。当然、六方晶系に属する結晶が \(a=b=c,\,\,\alpha=\beta=\gamma\)の形状の位格子を持つことも有り得ません。

 以上をまとめます。三方晶系の結晶にとって、意味のある単位格子は稜面格子か六方格子のいずれかです。六方晶系の結晶にとって意味のある単位格子は六方格子のみです。(補足: 「意味のある」というのは、単位格子が格子並進以外の対称操作を反映した形状をもつ、ということです)

 群論的な表現をすれば、立方晶系の部分群になりうるのが三方晶系で、なり得ないのが六方晶系ということもできます。詳しくは、別ページをご覧ください。

 ちなみに、「三方晶系であれば3回回転軸が存在する」は正解なのですが、「六方晶系であれば6回回転軸が存在する」は間違いです。例えば、点群 \(\bar{6}\)や\(\bar{6}2m\)は、6回回転軸を持ちません。\(\bar{6}\)(6回回反)は\(3/m\)と等価であることを忘れないようにしましょう。


Hexagonal setting と Rhombohedral setting

 上で述べたように、三方晶系に属する結晶は六方格子(\(a=b,\,\, \alpha=\beta=90°,\,\, \gamma=120°\))か菱面格子(\(a=b=c,\,\, \alpha=\beta=\gamma\))か、どちらかの形状の単位格子を持つことができます。両者の関係を考察しましょう。

 3回回転軸を持つ結晶を考えます。結晶ですから、3つの独立した並進ベクトルがあるはずです。並進ベクトルの始点(格子点)をどこに置くかは人間様の自由ですので、ここでは3回回転軸上に格子点(灰色の丸)を置くところからスタートします。

 ここで一つ仮定を置きます。「3回回転軸と垂直でも平行でもない方向に、短い並進ベクトルがある」という仮定です1。このベクトルおよび格子点を水色で示しました。

 水色の格子点は、3回回転軸の作用によってクリーム色と黄緑色に映ります。三本のベクトルを単位格子ベクトル \(a, b, c\) と考えれば、「\(a=b=c,\,\, \alpha=\beta=\gamma\)」という菱面格子になることがわかりますね。これで単位格子の出来上がり、と考えてもよいのですがもう少し話を進めます。

 この3つのベクトル (水色、クリーム色、黄緑色) を合成すると、そのベクトルの終点は3回回転軸上に位置します。すなわち、3回回転軸上にも格子点が存在するわけです。

 格子点と格子点を結べば、それは必ず並進ベクトルです。3回回転軸上の格子点を結ぶベクトルも当然並進ベクトルです。これを青いベクトルで示しましょう。また、3回回転軸と直交するような2本のベクトル(赤と緑)を選ぶこともできます。これも並進ベクトルです。赤、緑、青の並進ベクトルを \(a, b, c\) 軸と考えれば、「\(a=b,\,\, \alpha=\beta=90°,\,\, \gamma=120°\)」という六方格子の単位格子の出来上がりです。

 ところで、この単位格子は、最小体積の単位格子(=Primitiveな単位格子)ではありません。例えば \(c\) 軸(青)方向に1/3だけ進んだ \(c\) 軸断面では、下の図のように、水色の格子点が単位格子の中に入っています。水色の格子点の分率座標は、(2/3, 1/3, 1/3)です。同様に、 \(c\) 軸方向に2/3だけ進んだ \(c\) 軸断面では(1/3, 2/3, 2/3)の場所に格子点が見つかります。

 ここまでの話をまとめると、「3回回転軸と垂直でも平行でもない方向に短い並進ベクトル」があったとしても、結局は六方格子(\(a=b,\,\, \alpha=\beta=90°,\,\, \gamma=120°\))の形状の単位格子を取れてしまう、ただし、余分な格子点を単位格子内に二つ含む、ということです。もうお分かりですね。そうです、これが、 \(R\) 格子のHexagonal settingというやつです。例えば \(R3\) という空間群の結晶を Hexagonal settingで表現したければ、\(a\) 軸と \(c\) 軸の長さを指定し、(2/3, 1/3, 1/3)と(1/3, 2/3, 2/3)の格子並進を考慮する必要があります。

 一方、途中で出てきた菱面格子(\(a=b=c,\,\, \alpha=\beta=\gamma\))形状の単位格子が \(R\) 格子のRhombohedral settingです。例えば \(R3\) の結晶を Rhombohedral settingで表現したければ、\(a\) 軸の長さと \(\alpha\) の角度を指定します。この settingは単純単位格子(最小体積の単位格子)の表現ですから、内部に余計な格子点を含みません。それならば記号 \(P\) (Primitive)を使ってほしいところですが、そうすると別の混乱が生じます。もう少し話を進めます。

 今度は「3回回転軸と垂直でも平行でもない方向に短い並進ベクトル」が存在しない場合を考えてみましょう。これは簡単です。要するに「3回回転軸と垂直あるいは平行な短い並進ベクトルがある」ということですから、それらの並進ベクトルをそのまま \(a, b, c\) 軸として六方格子をとることが出ます。当然この単位格子は単純単位格子(\(P\)格子)です。例えば\(P3, P32, P3m\)みたいな空間群がこのケースに該当します。\(P\) の記号はこれらが使ってしまっているので、 Rhombohedral settingの空間群でたとえ単純単位格子だったとしても \(P\) の記号を使うことは出来ません。

 ところで、\(P3, P32, P3m\)のような空間群でも、六方格子の\(a, b, c\) 軸ベクトルを適切に組み合わせれば(例えば\(a+c, b+c, -a-b+c \)の三つを単位格子ベクトルとすれば)、菱面格子すなわち「\(a=b=c,\,\,\alpha=\beta=\gamma\)」を満たすような単純単位格子を採用することもできます。ただし、そんなことは普通はしません。なぜなら、Rhombohedral settingを採用すると3回回転軸に垂直あるいは平行な結晶面や晶帯軸の表現が直感的に分かりにくくなってしまうから、あるいはたいていの人間にとってRhombohedral よりHexagonal settingの方が理解しやすいから、です。(もっと深い理由があるかもしれません。詳しい方のご意見をお待ちしております。)


Hexagonal settingの結晶面の表現 \((h\, k\, i\, l)\)、軸の表現 \((u\, v\, i\, w)\)

 結晶面は、通常\((h\, k\, l)\) のように三つの指数 \(h, k, l\)で表現します。しかし、三方あるいは六方晶系の Hexagonal setting に場合に限って、結晶面を \((h\, k\, i\, l)\)のように四つの指数で表現すると便利なことがあります。

 三方あるいは六方晶系のHexagonal setting では \(c\)軸が3回回転軸と一致します。この3回回転操作で結ばれる等価な結晶面の集合を考えてみましょう。三指数表現の場合、例えば\((1\, 2\, 1)\)と等価な結晶面は \((\bar{3}\, 1\, 1)\)と\((2\, \bar{3}\, 1)\)なのですが、この3枚の面指数を見て即座に等価であると判断するのはちょっと難しいですよね。

 結晶面の四指数表現\((h\, k\, i\, l)\)では、\(i=-h-k\)となるように\(i\)を定めます。たとえば三指数の\((1\, 2\, 1)\)は、四指数では\((1\, 2\, \bar{3}\, 1)\)と表現します。そしてこの結晶面は3回回転操作によって \((\bar{3}\, 1\, 2\, 1)\), \((2\, \bar{3}\, 1\, 1)\) に写ります。これらの指数をみると \(h, k, i\) が循環可換(cyclically permutable)、すなわち\((h\, k\, i\, l)\) ⇔ \((i\, h\, k\, l)\) ⇔ \((k\, i\, h\, l)\) の関係を持つことが分かります。要するに、四指数表現\((h\, k\, i\, l)\) にすれば3回回転で結ばれる等価な結晶面を見分けやすい、ということです。 はい、便利ですね。変換の仕方も簡単で覚えやすいため、広く普及しています。

 さて、三方/六方のHexagonal settingにおいて結晶面の四指数表現が便利ならば、結晶軸の四指数表現も便利なのでは、と思われたことでしょう。そうです、軸の四指数表現もあります。他の対称性では軸は三指数で\([u\, v\, w]\) と表現しますが、三方/六方のHexagonal settingに限っては \([\frac{2u-v}{3}\,\frac{2v-u}{3}\,\frac{-u-v}{3}\,w]\)と表現することも出来ます。逆に四指数で \([u’\,\, v’\,\, i’\,\, w’]\) と書かれていたら、三指数へは \([2u’+v’\,\, u’+2v’\,\, w’]\) と変換してください。たとえば、三指数表現で\([1\, 2\, 1]\), \([\bar{2}\, \bar{1}\, 1]\), \([1\, \bar{1}\, 1]\) は等価なんですが、一見すると等価かどうか分かりにくいですね。これを四指数表現にすると \([0\, 1\, \bar{1}\, 1]\), \([\bar{1}\, 0\, 1\, 1]\), \([1\, \bar{1}\, 0\, 1]\)となります。たしかに循環可換な関係になっていて等価な結晶軸を見分けやすくなっています。また、\(w=0\)の時に限って、\([u\, v\, i\, 0]\)軸は\((u\, v\, i\, 0)\)面の法線方向と一致するという性質もあります。

三指数表現四指数表現
結晶面\((h\, k\, l)\)\((h\, k\, i\, l)\) ただし \(i=-h-k\)
結晶軸\([u\, v\, w]\) \([\frac{2u-v}{3}\,\frac{2v-u}{3}\,\frac{-u-v}{3}\,w]\)
\([2u’+v’\,\, u’+2v’\,\, w’]\) \([u’\,\, v’\,\, i’\,\, w’]\) ただし \(i’=-u’-v’\)

 ところで、結晶面の四指数表現は広く使われていますが、結晶軸の四指数表現は一部の業界を除いてあまり普及していません。おそらく、変換式が分かりにくいこと、ワイスの晶帯則( \(hu+kv+lw=0\)ならば\((h\, k\, l)\)面の法線と\([u\, v\, w]\)軸は直交するという規則)が使えなくなること、そもそも結晶面ではなく結晶軸が主役になるような解析の場面が少ないこと、などが利用だと思われます。


\(P321\)と\(P312\)

 点群32に属する空間群のなかに、\(P321\)と\(P312\) があります。なぜこの二つを分ける必要があるのか、不思議に感じたことは無いでしょうか。

 まず、\(P321\)と\(P312\) は共に「3回回転軸と、それに直交する2回回転軸が存在する」という空間群です。3次元空間群ですから当然3方向の並進操作(並進ベクトル)も含むわけですが、1つは3回回転軸と平行、残り2つは3回回転軸に直交、というふうに選ぶことが出来ます(「Hexagonal setting と Rhombohefral setting」を参照のこと)。

 3回回転軸に直交する2つの並進ベクトル (\(a, b\) とします)と、やはり3回回転軸に直交する2回回転軸を、群が成立するように配置しようとすると、① \(a\) ベクトルや\(b\) ベクトルの方向を2回回転軸と一致させる、あるいは、② \(a-b\) ベクトルや\(a+2b\) ベクトルの方向を2回回転軸と一致させる、の二通りがあります(これ以外の配置は群として成立しない)。そうです、①のケースが\(P321\) 、②のケースが\(P312\)ということなのです。以下にこの2つの空間群の対称操作および一般点の関係を示します。全く違う空間群であることが分かると思います。

 ここで述べた関係は、「\(P3_121\)と\(P3_112\)」, 「\(P3_221\)と\(P3_212\)」, 「\(P3m1\)と\(P31m\)」, 「\(P3c1\)と\(P31c\)」, 「\(P\bar{3}m1\)と\(P\bar{3}1m\)」, 「\(P\bar{3}c1\)と\(P\bar{3}1c\)」の関係にも当てはまります。うっかり間違えないように気を付けましょう。

 ところで、\(P312\)のような ②のタイプの空間群の物質を取り扱う際は、点群やラウエクラスとの関係に注意しましょう。例えば、弾性率や誘電率などのテンソルはラウエクラスによってその形状が決まりますが、多くの文献では①の形式でのみ解析が行われています。①の形式で解析された弾性率を②のタイプの結晶に適用する際には、\(a-b → a’\), \(a+2b → b’\) のような軸変換を行う必要があります。


  1. 「3回回転軸と垂直でも平行でもない方向に短い並進ベクトル」という表現の中の「短い」の意味は、正確に言うとc軸に垂直な成分が小さいかどうか、ということです。もっとも\(c\)軸垂直な成分が小さいベクトルは\(c\)軸に平行なベクトルです。他の独立なベクトルの、\(c\)軸垂直な成分が最も短いものを選んだ時、そのベクトルの\(c\)軸平行な成分がゼロであればPrimitive、ゼロでなければRhombohedral、ということになります。 ↩︎

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Stupidity has a certain charm; ignorance does not. Frank Zappa