(書きかけです。完成まで今しばらくお待ちください)
空間群を学び始めた段階で、多くの人が最初につまずくのは、International Tables for Crystallography, Volume A (以下 ITA) に載っている図の読み方でしょう。Hermann–Mauguin 記号だけでは空間群の全体像は見えませんが、図を読めるようになると、対称要素が単位格子のどこにあり、それらが一般位置をどのように写し合うのかが一目で分かるようになります。International Tables の空間群ページには、通常、一般位置図 (general-position diagram) と 対称要素図 (symmetry-elements diagram) の二種類の図が並んでおり、前者は一般位置の等価点の配置を、後者は対称要素の位置と向きを表しています。
このページでは、International Tables の図を読む際に最低限必要となる考え方を整理します。個々の記号そのものの意味は、前ページ「3.1. 対称要素の詳細」で説明しましたので、ここでは「それらの記号が図の中でどう配置され、どう読まれるか」に重点を置きます。
まず、空間群ページのどこを見るか
International Tables の空間群ページには多くの情報が並んでいますが、初学者はまず次の四箇所だけ見れば十分です。
1つ目は、ページ上部にある 空間群記号と空間群番号 です。ここで、そのページがどの空間群を扱っているかが分かります。
2つ目は、一般位置図 と 対称要素図 です。空間群の幾何学的な中身は、ほとんどこの二つの図に凝縮されています。
3つ目は、一般位置および特殊位置の座標表 です。ここには、等価位置の座標、ワイコフ文字、多重度、サイトシンメトリーが一覧されています。
4つ目は、Origin や Asymmetric unit に関する記述です。原点がどこに置かれているか、非対称単位をどこでとるかによって、図の見え方や座標表の書き方が決まるからです。
慣れてくると、まず図を眺めて対称要素の配置をつかみ、次に座標表を見て一般位置と特殊位置の関係を確認する、という順序で読むのが速くなります。
一般位置図とは
一般位置図とは、対称性を全く持たない任意の一点 を単位格子中に置いたとき、その点が空間群の全対称操作によってどこへ写るかを図示したものです。言い換えれば、一般位置図は「ある一般点から生成される等価点の並び方」を示しています。IUCr の解説でも、一般位置図は、同一座標系のもとで対称的に等価な一般点の配置を示す図として説明されています。
たとえば一般位置の座標表に$$
(x,y,z),\quad (-x, y+\frac{1}{2}, -z+\frac{1}{2}), \cdots
$$のような式が並んでいれば、一般位置図には、それらの点が単位格子内のどこに現れるかが描かれています。図中の各点は、単なる「点」ではなく、座標表の各行に対応する等価位置の代表です。したがって、図と座標表は別物ではなく、同じ情報を図と式で二重に表していると考えると理解しやすいです。
また、一般位置図で最初に出てくる位置は、通常、座標表の General の行に対応しています。そこで書かれている多重度は、単位格子内に現れる等価点の数です。サイトシンメトリーが 1 であることは、その点がどの非自明な対称要素の上にも乗っていない、という意味です。逆に、鏡面や回転軸などの上に点を置くと、生成される等価点の数は減り、その点は特殊位置になります。
対称要素図とは
対称要素図は、単位格子の中に どの対称要素が、どこに、どの向きで存在するか を描いたものです。IUCr の図示法ガイドでも、対称要素図は、対称要素の相対的位置関係だけでなく、採用された座標系に対する絶対的位置と向きも示す図として説明されています。
空間群記号に書かれている対称要素は、あくまでその空間群を特徴づける代表的なものだけです。実際の空間群には、それらの組合せから自動的に生じる“冗長な”対称要素も多数含まれます。したがって、対称要素図を見ると、記号の中には直接書かれていない鏡面、らせん軸、対称心などが現れることがあります。これは誤りではなく、むしろ空間群の全体像を正しく反映したものです。IUCr の教育用解説でも、たとえば Pnma の図を例に、空間群記号に明示されていない対称要素が図には現れることが説明されています。
前ページで学んだように、回転軸、らせん軸、鏡面、映進面、対称心にはそれぞれ固有の図記号があります。International Tables の図では、これらが「線の種類」「多角形の形」「矢印の有無」などによって描き分けられています。したがって、図を読むときは、まず個々の記号の意味を知っていること、次にその記号が単位格子のどこに置かれているかを見ること、この二段階が大切です。
図は「投影図」
International Tables の三次元空間群の図は、三次元の単位格子を二次元の紙面に射影したものです。そのため、図を見るときには「どちらの方向から見ている図なのか」を必ず意識する必要があります。IUCr の解説では、たとえば Pnma の図について、紙面に向かって zzz 方向から投影し、紙面の水平方向が yyy、鉛直方向が xxx になるように描かれていることが説明されています。つまり、図の左右上下はそのまま a,b,c 軸に対応するとは限らず、そのページで採用されている投影方向に従って読み替えなければなりません。
このことは特に、単斜晶系や直方晶系の設定違いを扱うときに重要です。設定が変われば、同じ空間群タイプでも、どの軸が紙面内で横向きになるか、どの軸が紙面外になるかが変わります。したがって、図の形だけを見て判断するのではなく、図に添えられた軸ラベルや設定の注記を必ず確認する必要があります。International Tables のガイドでも、単斜・直方晶系では複数の設定や投影の取り扱いが説明されています。
紙面内の位置と、紙面外の「高さ」
投影図では、紙面内の二次元座標だけでは情報が足りません。そこで International Tables では、紙面に垂直な方向の位置、すなわち“高さ”を補助記号で表します。
対称要素図では、鏡面や映進面などに分数が添えられていることがあります。これは、その対称要素が紙面からどれだけ離れた位置にあるかを示すものです。IUCr の図記号の説明によれば、たとえば分数 h が添えられていれば、その記号は、投影方向に関して高さ h と h+21 の二つの位置にある対称要素を表します。また、分数が付いていない場合は、通常 0 と 21 の位置にあるものとして扱われます。
一般位置図の点についても、紙面の上か下か、あるいはどの高さにあるかを補助記号で表します。IUCr の対称性解説では、記号 + と − が、それぞれ紙面より上側・下側の等距離の位置を表すことが示されています。したがって、一般位置図を見るときは、点の平面内位置だけでなく、その点に付いた補助記号も含めて一つの情報として読む必要があります。
一般位置図と対称要素図は、必ず対応している
この二つの図は、別々の情報を並べているのではありません。対称要素図に描かれた各対称要素が、一般位置図の点をどのように写し合うかを表している、という意味で、両者は完全に対応しています。たとえば鏡面があれば、一般位置図の点はその鏡面に関して反対側に対応点を持ちます。映進面なら、鏡映に加えて並進が加わるため、反対側に移るだけでなく、さらに一定量だけずれた位置に等価点が現れます。らせん軸であれば、回転だけでなく軸方向の並進も伴うため、紙面上では回転対応に見えても、実際には高さも変化しています。
したがって、空間群の図を読む練習として最も有効なのは、対称要素図を見て、一般位置図のどの点がどの操作で対応するかを一つずつ追うことです。慣れるまでは、一般位置図だけ、あるいは対称要素図だけを眺めても理解しにくいのですが、両者を往復して見ると、対称操作の意味が急に具体的になります。
座標表との対応
図だけでなく、座標表も同時に見ると理解が深まります。一般位置の欄には、多重度、ワイコフ文字、サイトシンメトリー、そして具体的な等価座標が並んでいます。たとえば「8d1」のように書かれていれば、それは「多重度 8 の一般位置、ワイコフ文字 d、サイトシンメトリー 1」を意味します。IUCr の教育用解説でも、一般位置にある原子は、その多重度の数だけ単位格子中に等価な原子を持つこと、特殊位置に移るとその数が減ることが説明されています。
特殊位置は、ある点が鏡面、回転軸、対称心などの上にあるために、ある対称操作で自分自身に重なる位置です。そのため、一般位置よりも多重度が小さくなり、サイトシンメトリーは m, 2, 1ˉ などの非自明な記号になります。つまり、一般位置図は「何も対称要素に乗っていない点」を基準にした図であり、特殊位置表は「対称要素の上に乗った場合」を数式で整理したものと理解できます。