改めて対称操作 (要素) の詳細な説明です。
回転要素
Hermann-Mauguin (HM) 記法では、記号 \(n\) は 𝑛次の回転 (n-fold rotation) 要素を意味します。並進対称と両立する回転の次数は 1, 2, 3, 4, 6 です。以下は、各回転要素の性質を図示したものです。
図の読み方を補足します。
- 図中の緑色の図形は、紙面垂直方向の回転要素を表現しています。基本的に次数に対応する正多角形で表現するのですが、\(1\) は恒等要素なので図形は定義されておらず、\(2\) は(二角形はかけないので)どら焼きのような図形で表現します。
- 対称要素の周りにある白丸は何らかの物体です。図をシンプルにするために白丸で表現しているだけであって、本当はもっと複雑な形状の物体であるとイメージしてください。白丸は回転軸の周りでその対称性を満たすような配置をとっています。
- 白丸の近くにある“\(\bf +\)”は、紙面からの距離(高さ)を表現し、“\(\bf 0+z\)” (\(\bf z\)は任意の数値) を省略した記号です。こんな記号、本当に必要?と思われるでしょうが、以降の対称要素を説明する際に有難味がわかります。
回反要素
HM 記法では、記号 \(\bar{n}\) は 𝑛次の回反(n-fold rotoinversion)を意味します。回反とは、回転に引き続き対称心をおこなう操作のことです。「回して反転」と覚えましょう。以下に各回反要素の性質を図示します。
対称要素の記号は回転の説明と同じく緑色で表現しています。以下、補足説明です。
- 1回回反は要するに対称心ということであり、小さい白丸が対称要素記号です。2回回反軸に対応する対称要素記号はありませんが、鏡映 \(m\) と等価ですので、代わりに \(m\) の記号 (カギ括弧のような記号) を使います。
- 白丸の中にカンマ “,” が書かれた記号 (以降点丸) は白丸と対掌の関係の物体であることを意味します。つまり、白丸を右手とすれば点丸は左手だということです。
- “\(\bf{–}\)”は、紙面からの高さが “\(\bf{0-z}\)” (\(\bf{z}\)は任意の数値) であることを意味します。
- 丸が分割された記号 は投影方向(紙面垂直方向) から見て白丸と点丸が重なった位置にあることを意味しており、それぞれに対する高さの情報が近くに書き添えられます。この場合は、白丸が高さ \(\bf 0+z\)、点丸が高さ\(\bf 0-z\)ということになります。
回映要素
余談ですが、回反要素と似たような概念の仲間がいます。「回映 (𝑛-fold rotoreflection)」という対称要素です。Schoenflies記法では、記号 \(S_n\) はn次の回映を意味します。回映操作とは、回転に引き続き鏡映を行う操作のことです。「回して鏡映」と覚えましょう。
回反はSchoenflies記法では表現できず、回映はHM 記法では表現できません。ただし、「角度\(\theta\)の回転の後に鏡映」を行うという操作は、「\(\theta+180^\circ\)の回転の後に対称心」を行う操作と等価です。すなわち、回反操作と回映操作は、回転の位相が\(180^\circ\)異なる場合に等価となります(反転の点は反射平面内にあるものとする)。 アフィン変換(4×4行列)で回反操作や回映操作を表現すると、以下の通りとなります。
$$
\bar{1}=S_2= \begin{pmatrix}
-1&0&0&0\\ 0&-1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{2}=S_1= \begin{pmatrix}
1&0&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{4}=S_4= \begin{pmatrix}
0&1&0&0\\ -1&0&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}
$$
$$
\bar{3}=S_6= \begin{pmatrix}
1/2&\sqrt{3}/2&0&0\\ -\sqrt{3}/2&1/2&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{6}=S_3= \begin{pmatrix}
-1/2&-\sqrt{3}/2&0&0\\ \sqrt{3}/2&-1/2&0&0\\ 0&0&1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}
$$
以下に対応表をまとめます。
Hermann-Mauguin (HM)記法 | Schoenflies 記法 |
---|---|
\(\bar{1} = i\) | \(S_2 = C_i\) |
\(\bar{2} = m\) | \(S_i = C_s\) |
\(\bar{4}\) | \(S_4\) |
\(\bar{3} =3\cdot i\) | \(S_6 = C_{3i}\) |
\(\bar{6}=3/m\) | \(S_3 = C_{3h}\) |
らせん要素
回反要素に比べて、らせん要素のほうが一見とっつきやすいように感じますが、意外と勘違いが多い対称操作(要素)です。\(6_1\) 要素が \(2_1\) 要素を含むことや、\(4_2\) 要素が \(2_1\) 要素を含まないことを、説明できるでしょうか?以下にらせんの対称要素を図示しますので、じっくり眺めてください。なお、このページでは、紙面垂直手前に向かって右ねじの方向でらせん軸を描きます。まず、次数が2と3のらせん軸です。
緑色の、風車のような記号がらせん軸の対称要素です。以下、図の読み方に関する補足です。
- \(2_1\)らせんは、回転の向きは考慮する必要はありません。\(3_1\)と\(3_2\)らせんは、よく似た対称要素記号ですが、風車の向きが異なることにご注意ください。
- “\(\bf x+\)”は、紙面からの高さが “\(\bf x+z\)” であることを意味しています。高さの単位は、軸方向の1周期に対する分率です。具体的な単位をもつ量ではないことにご注意下さい。
- らせん操作は並進を伴うので、白丸は無限に存在します。例えば、\(\bf \frac{1}{2}+\)の高さにある白丸は、実は\(\bf \frac{3}{2}+\)や\(\bf -\frac{1}{2}+\)”にの高さにある白丸と重なっているのです。ただ、これらをすべて書くのは不可能ですし冗長過ぎるので、\(\bf +\)の前の数字が0以上1未満の場合のみを表記しています。
次は、次数が6のらせん軸です。
図の読み方については、もう補足説明は要らないでしょう。白丸や点丸の配置をよく見ると、例えば\(6_3\)は\(3\)や\(2_1\)の要素を含むことがわかります。
最後に、次数が4のらせん軸です。
\(4_1\)と\(4_3\)は \(2_1\)の要素を含み、\(4_2\) は \(2\)の要素を含みことがわかりますね。
映進要素
映進は、鏡のように映ったあと、そこで終わらずに面に沿って進む(並進)という対称操作です。「映って進む」、と覚えましょう。
対称要素記号は、\(a. b, c, n, e, d\) のいずれかです。これらの記号は並進の方向に対応しており、映進面の法線方向の情報は含まないということに注意しましょう。ただし、あらゆる対称方向に全ての記号が使えるわけではありません。例えば映進面 \(a\) は、単位格子 \(\textbf{a}\) の方向に並進するわけですから、映進面の法線方向と\(\textbf{a}\) は直交している必要があります。以下に、どの結晶類(点群)のどの対称方向(主軸、副軸)に、どの映進面が現れる可能性があるかを、結晶系ごとにまとめます。なお映進面が全く現れない結晶類は省略しています。
単斜
結晶類 | 主軸: \(\textbf{b}\) |
---|---|
\(m\), \(2/m\) | \(a,c,n\) |
直方
結晶類 | 主軸: \(\textbf{a}\) | 副軸1: \(\textbf{b}\) | 副軸2: \(\textbf{c}\) | |
---|---|---|---|---|
\(mm2\) | \(b,c,n,e,d\) | \(a,c,n,e,d\) | – | |
\(mmm\) | \(b,c,n,e,d\) | \(a,c,n,e,d\) | \(a,b,n,e,d\) |
正方
結晶類 | 主軸: \(\textbf{c}\) | 副軸1: \(\textbf{a}\) (=\(\textbf{b})\) | 副軸2: \(\langle110\rangle\) | |
---|---|---|---|---|
\(4/m\) | \(a,b,n\) | – | – | |
\(4mm\) | – | \(a,b,c,n\) | \(c,n,d\) | |
\(\bar{4}2m\) | \(\bar{4}2m\) | – | – | \(c,n,d\) |
\(\bar{4}m2\) | – | \(a,b,c,n\) | – | |
\(4/mmm\) | \(a,b,n\) | \(a,b,c,n\) | \(c,n,d\) |
立方
結晶類 | 主軸: \(\textbf{c}\)(=\(\textbf{a}\)=\(\textbf{b})\) | 副軸1: \(\langle111\rangle\) | 副軸2: \(\langle110\rangle\) | |
---|---|---|---|---|
\(m\bar{3}\) | \(a,b,n,d\) | – | – | |
\(\bar{4}3m\) | – | – | \(c,n,d\) | |
\(m\bar{3}m\) | \(a,b,n,d\) | – | \(c,n,d\) |
三方、六方
結晶類 | 主軸: \(\textbf{c}\) | 副軸1: \(\textbf{a}\)(=\(\textbf{b}\)=\([\bar{1}\bar{1}0])\) | 副軸2: \(\langle1\bar{1}0\rangle\) | |
---|---|---|---|---|
\(3m\) | \(3m1\) | – | \(c\) | – |
\(31m\) | – | – | \(a,c,n\) | |
\(3m\) | – | \(c,n\) | – | |
\(\bar{3}m\) | \(\bar{3}m1\) | – | \(c\) | – |
\(\bar{3}1m\) | – | – | \(a,c,n\) | |
\(\bar{3}m\) | – | \(c,n\) | – | |
\(6mm\), \(6/mmm\) | – | \(c\) | \(c\) | |
\(\bar{6}m2\) | \(\bar{6}m2\) | – | \(c\) | – |
\(\bar{6}2m\) | – | – | \(c\) |