改めて対称操作 (要素) の詳細な説明です。

回転要素

 Hermann-Mauguin (HM) 記法では、記号 \(n\) は 𝑛次の回転 (n-fold rotation) 要素を意味します。並進対称と両立する回転の次数は 1, 2, 3, 4, 6 です。以下は、各回転要素の性質を図示したものです。

図の読み方を補足します。


回反要素

 HM 記法では、記号 \(\bar{n}\) は 𝑛次の回反(n-fold rotoinversion)を意味します。回反とは、回転に引き続き対称心をおこなう操作のことです。「して転」と覚えましょう。以下に各回反要素の性質を図示します。

対称要素の記号は回転の説明と同じく緑色で表現しています。以下、補足説明です。

回映要素

 余談ですが、回反要素と似たような概念の仲間がいます。「回映 (𝑛-fold rotoreflection)」という対称要素です。Schoenflies記法では、記号 \(S_n\) はn次の回映を意味します。回映操作とは、回転に引き続き鏡映を行う操作のことです。「して鏡」と覚えましょう。

 回反はSchoenflies記法では表現できず、回映はHM 記法では表現できません。ただし、「角度\(\theta\)の回転の後に鏡映」を行うという操作は、「\(\theta+180^\circ\)の回転の後に対称心」を行う操作と等価です。すなわち、回反操作と回映操作は、回転の位相が\(180^\circ\)異なる場合に等価となります(反転の点は反射平面内にあるものとする)。 アフィン変換(4×4行列)で回反操作や回映操作を表現すると、以下の通りとなります。

$$
\bar{1}=S_2= \begin{pmatrix}
-1&0&0&0\\ 0&-1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{2}=S_1= \begin{pmatrix}
1&0&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{4}=S_4= \begin{pmatrix}
0&1&0&0\\ -1&0&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}
$$

$$
\bar{3}=S_6= \begin{pmatrix}
1/2&\sqrt{3}/2&0&0\\ -\sqrt{3}/2&1/2&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}\quad
\bar{6}=S_3= \begin{pmatrix}
-1/2&-\sqrt{3}/2&0&0\\ \sqrt{3}/2&-1/2&0&0\\ 0&0&1&0\\ 0&0&0&1
\end{pmatrix}
$$

以下に対応表をまとめます。

Hermann-Mauguin
(HM)記法
Schoenflies
記法
\(\bar{1} = i\)\(S_2 = C_i\)
\(\bar{2} = m\)\(S_i = C_s\)
\(\bar{4}\)\(S_4\)
\(\bar{3} =3\cdot i\)\(S_6 = C_{3i}\)
\(\bar{6}=3/m\)\(S_3 = C_{3h}\)


らせん要素

 回反要素に比べて、らせん要素のほうが一見とっつきやすいように感じますが、意外と勘違いが多い対称操作(要素)です。\(6_1\) 要素が \(2_1\) 要素を含むことや、\(4_2\) 要素が \(2_1\) 要素を含まないことを、説明できるでしょうか?以下にらせんの対称要素を図示しますので、じっくり眺めてください。なお、このページでは、紙面垂直手前に向かって右ねじの方向でらせん軸を描きます。まず、次数が2と3のらせん軸です。

緑色の、風車のような記号がらせん軸の対称要素です。以下、図の読み方に関する補足です。

 次は、次数が6のらせん軸です。

図の読み方については、もう補足説明は要らないでしょう。白丸や点丸の配置をよく見ると、例えば\(6_3\)は\(3\)や\(2_1\)の要素を含むことがわかります。

 最後に、次数が4のらせん軸です。

\(4_1\)と\(4_3\)は \(2_1\)の要素を含み、\(4_2\) は \(2\)の要素を含みことがわかりますね。


映進要素

 映進は、鏡のように映ったあと、そこで終わらずに面に沿って進む(並進)という対称操作です。「ってむ」、と覚えましょう。

 対称要素記号は、\(a. b, c, n, e, d\) のいずれかです。これらの記号は並進の方向に対応しており、映進面の法線方向の情報は含まないということに注意しましょう。ただし、あらゆる対称方向に全ての記号が使えるわけではありません。例えば映進面 \(a\) は、単位格子 \(\textbf{a}\) の方向に並進するわけですから、映進面の法線方向と\(\textbf{a}\) は直交している必要があります。以下に、どの結晶類(点群)のどの対称方向(主軸、副軸)に、どの映進面が現れる可能性があるかを、結晶系ごとにまとめます。なお映進面が全く現れない結晶類は省略しています。

単斜

結晶類主軸: \(\textbf{b}\)
\(m\), \(2/m\) \(a,c,n\)

直方

結晶類主軸: \(\textbf{a}\)副軸1: \(\textbf{b}\)副軸2: \(\textbf{c}\)
\(mm2\)\(b,c,n,e,d\)\(a,c,n,e,d\)
\(mmm\)\(b,c,n,e,d\)\(a,c,n,e,d\)\(a,b,n,e,d\)

正方

結晶類主軸: \(\textbf{c}\)副軸1: \(\textbf{a}\) (=\(\textbf{b})\)副軸2: \(\langle110\rangle\)
\(4/m\)\(a,b,n\)
\(4mm\)\(a,b,c,n\) \(c,n,d\)
\(\bar{4}2m\) \(\bar{4}2m\)\(c,n,d\)
\(\bar{4}m2\)\(a,b,c,n\)
\(4/mmm\)\(a,b,n\)\(a,b,c,n\)\(c,n,d\)

立方

結晶類主軸: \(\textbf{c}\)(=\(\textbf{a}\)=\(\textbf{b})\)副軸1: \(\langle111\rangle\)副軸2: \(\langle110\rangle\)
\(m\bar{3}\)\(a,b,n,d\)
\(\bar{4}3m\)\(c,n,d\)
\(m\bar{3}m\)\(a,b,n,d\)\(c,n,d\)

三方、六方

結晶類主軸: \(\textbf{c}\)副軸1: \(\textbf{a}\)(=\(\textbf{b}\)=\([\bar{1}\bar{1}0])\)副軸2: \(\langle1\bar{1}0\rangle\)
\(3m\)\(3m1\)\(c\)
\(31m\)\(a,c,n\)
\(3m\)\(c,n\)
\(\bar{3}m\)\(\bar{3}m1\)\(c\)
\(\bar{3}1m\)\(a,c,n\)
\(\bar{3}m\)\(c,n\)
\(6mm\), \(6/mmm\)\(c\)\(c\)
\(\bar{6}m2\)\(\bar{6}m2\)\(c\)
\(\bar{6}2m\)\(c\)

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