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 前ページまでで、回折が逆空間で理解できること、また反射 hklhklhkl が逆格子ベクトル ghkl\mathbf{g}_{hkl}ghkl​ に対応することを見てきました。しかし、ある反射が“起こりうる”ことと、その反射が“実際に強い”ことは同じではありません。反射強度を決めるのは、単位胞内の原子配列です。その情報をまとめた量が結晶構造因子 (structure factor) F(hkl)F(hkl)F(hkl) です。

 単位胞内に j=1,2,,Nj=1,2,\dots,Nj=1,2,…,N 個の原子があり、それぞれの分率座標を (xj,yj,zj)(x_j,y_j,z_j)(xj​,yj​,zj​)、原子散乱因子を fjf_jfj​ とします。このとき、反射 hklhklhkl に対する構造因子は$$
F(hkl)= \sum_{j=1}^{N} f_j \exp[2\pi i (hx_j+ky_j+lz_j)]
$$で与えられます。これは、各原子からの散乱波を複素数として足し合わせたものです。指数関数の中に現れる hxj+kyj+lzjhx_j+ky_j+lz_jhxj​+kyj​+lzj​ は、各原子がその反射に対してどれだけ位相差を持つかを表しています。この式から分かるように、反射強度は単に「原子の数」が多いかどうかでは決まりません。単位胞内の原子がある配置をとると、散乱波どうしが強め合うこともあれば、互いに打ち消し合うこともあります。したがって、同じ結晶でも反射ごとに強度が大きく異なります。

 観測される回折強度 I(hkl)I(hkl)I(hkl) は、$$
I(hkl) \propto |F(hkl)|^2
$$と比例します。すなわち、構造因子の絶対値の二乗が強度を決めます。実際の測定強度には、これに加えてローレンツ因子、偏光因子、温度因子、吸収補正、多重度なども関与しますが、構造因子が中心的役割を担うことに変わりはありません。

 
簡単な例として、単位胞内に同じ原子が2個あり、その位置が (0,0,0)(0,0,0)(0,0,0) と (12,12,12)(\frac12,\frac12,\frac12)(21​,21​,21​) であったとします。このとき$$

$$です。つまり、奇数和の反射は完全に消滅します。これは体心格子に特徴的な消滅則の最も基本的な例です。

 同様に、面心格子やダイヤモンド構造のように、単位胞内の原子配置に特定の規則性があると、ある種の反射が系統的に弱くなったり、完全に消えたりします。このような“対称性や並進に由来する系統的消滅”を整理したものが、次ページで扱う反射条件です。

なお、構造因子 F(hkl)F(hkl)F(hkl) は複素数です。回折実験で直接観測できるのは F(hkl)2|F(hkl)|^2∣F(hkl)∣2 であり、位相そのものは失われます。これが結晶構造解析における位相問題の出発点です。ただし本シリーズでは、まず構造因子が「単位胞内の原子配列をフーリエ係数として表したもの」であることをしっかり押さえておけば十分でしょう。

最後に強調しておくと、格子の種類は“どの位置に反射点が現れるか”を決め、構造因子は“その反射がどの程度強いか”を決めます。回折図形を読むときは、この二つを分けて考えることが重要です。