前ページでは、行列式とヤコビアンの意味を説明しました。ヤコビアンは、座標変換によって微小な長さ・面積・体積がどのように拡大・縮小されるかを表す量でした。球面投影法は、このヤコビアンの考え方が典型的に現れる例のひとつです。球面を平面に写すとき、すべての幾何学的性質を同時に保存することはできません。一般には、角度を保存するか、あるいは面積を保存するか、どちらを重視するかで投影法を選びます。ここでは、結晶学や方位分布の可視化でよく使うステレオ投影 (等角投影)、ランベルト正積方位投影 (等積投影) およびその発展であるロスカ-ランベルト投影を説明します。
球面座標と平面円座標
まず単位球面上の点を$$
P(\theta,\varphi)=(\sin\theta\cos\varphi,\ \sin\theta\sin\varphi,\ \cos\theta)
$$と書くことにします。ここで、\(\theta\) は北極から測った余緯度、\(\varphi\) は経度です。球面上の線要素 \(\delta s\) (すなわち点 \(P(\theta,\varphi)\) から点 \(P(\theta+\delta\theta,\varphi+\delta\varphi)\) までの長さ) は$$
\delta s^2=\delta\theta^2+\sin^2\theta\,\delta\varphi^2
$$であり、面積要素 \(\delta S\) (すなわち点 \(P(\theta,\varphi)\) を頂点の一つし、\(\theta\) と \(\varphi\) の座標線で囲まれる微小領域の面積)は$$
\delta S=\sin\theta\,\delta\theta\,\delta\varphi
$$となります。

ここで単位球面上の点を平面上の円内に投影することを考えます。極を中心とする方位投影であれば、平面上の偏角を球面上の経度 \(\varphi\) に一致させるのが自然であり、あえて他の選択肢を積極的に採用する必要はないでしょう。したがって投影の本質は、球面上の余緯度 \(\theta\) を平面上の半径 \(r\) にどう対応させるかという点にあります。
まず、球面座標 \(P(\theta,\varphi)\) が以下のような変換で平面座標 \((X,Y)\) に変換されるとします。$$
(X,Y) = \bigl( r(\theta)\cos\varphi,\ r(\theta)\sin\varphi \bigr)
$$ \(r(\theta)\) が具体的にどんな形であるかは一旦置いておきますが、少なくとも微分可能な関数であるとします。この状況で、球面上の微小要素と平面上の微小要素の関係を見ていきましょう。
等角投影の条件
まず、経線方向の変化 (\(\theta\) の変化) を考えます。\(\theta\) が \(\theta+\delta\theta\) に変化したとき 、球面上での変化量は \(\delta\theta\) そのものですが、平面円上では半径方向に \( \delta\theta\, \large{\frac{dr}{d\theta}} \) だけ変化します。すなわち球面上の微小変化が、平面円上では \(\large{\frac{dr}{d\theta}} \) 倍となって現れるわけです。
一方、緯線方向は \(\varphi\) の変化に対応します。\(\varphi\) が \(\varphi+\delta\varphi\) に変化したとき 、球面上での変化量は \(\sin\theta\, \delta\varphi\) であり、平面円上では \(r\, \delta\varphi\) となります (経線方向と違って、\(\theta\) あるいは \(r\) が現れることに注意)。すなわち、球面から平面への変化量の倍率は\(\large{\frac{r}{\sin\theta}}\) です。
ところで緯線と経線は球面でも平面でも必ず直交します。つまり球面あるいは平面の微小領域内では、直交座標系の軸 (基底) としていつでも緯線方向と経線方向を選べるということです。そして球面から平面への投影によって、2つの基底の長さの割合が変化しなければ、当然その座標系で表現される図形は相似 (角度が保存) になります。すなわち、等角投影とは $$\frac{dr}{d\theta} = \frac{r}{\sin\theta}$$ を満たすような投影であると結論できます。
等積投影の条件
それでは面積についてはどうでしょうか。球面の面積要素はすでに述べたように$$\delta S=\sin\theta\,\delta\theta\,\delta\varphi$$です。一方、平面の面積要素 \(\delta A\) は上の図を見ても分かるように、$$\delta A=r\,\delta r\,\delta\varphi=r\, \frac{dr}{d\theta}\,\delta\theta\,\delta\varphi $$と書くことが出来ます。等積投影とは \(\delta A\) が \(\delta S\) に比例すればいいわけですから、要するに等積投影とは$$
r\,\frac{dr}{d\theta}\propto\sin\theta
$$を満たすような投影と言い換えることができます。
ヤコビ行列、ヤコビアンとの関係
前ページで説明したヤコビアンの概念を使えば、上で導入した \(\frac{dr}{d\theta}\) と \(\frac{r}{\sin\theta}\) は、この写像に対応するヤコビ行列の、二つの主軸方向における伸縮率 (特異値) に他なりません。等角条件とは、この二つの特異値が等しい (局所的に相似変換である) ことを意味します。一方、等積条件は、二つの特異値の積 (=ヤコビアン) が定数であること、すなわち球面の面積要素 \(\delta S\) と平面の面積要素 \(\delta A\) の比がどこでも一定であることを意味しています。
以降で説明する各投影法は、等角/等積投影のどちらかの条件を満たすように \(r(\theta)\) が設計されています。
ステレオ投影(等角投影)
ステレオ投影の幾何学
ステレオ投影 (stereographic projection) とは主に結晶学や鉱物学の分野で用いられている古典的な投影法です。 \(Z \le 0\) 側の極 \(S=(0,0,-1)\) から球面上の点 \(P\) に向かって線を伸ばし、赤道面 \(Z=0\) と交わった点 \(P’\) を投影する方法です。この投影法は角度を保存します。すなわち球面上の円を平面上の円 (あるいは直線) に写します。
この投影によって球面上の点 \(P = (x,y,z)\) は次のように平面上の点 \(P’=(X,Y)\) に変換されます。$$(X,Y)=\left(\frac{x}{1+z},\ \frac{y}{1+z}\right)
$$逆写像は$$
(x,y,z)=\frac{1}{1+X^2+Y^2} \left(
2X,\ 2Y,\ 1-X^2-Y^2\right)
$$です。

等角性
この投影が本当に等角性を持つか、 \(r(\theta)\) の関数形を見て確認しましょう。\((X,Y)\) を \(\theta\) と \(\varphi\) で表現すれば$$
(X,Y)=\left(\frac{x}{1+z},\ \frac{y}{1+z}\right)=\left(\frac{\sin\theta\cos\varphi}{1+\cos\theta},\ \frac{\sin\theta\sin\varphi}{1+\cos\theta}\right)=
\left( \tan\frac{\theta}{2}\cos\varphi,\tan\frac{\theta}{2}\sin\varphi \right)
$$ですから、球面上の余緯度 \(\theta\) を平面上の半径に変換する関数 \(r_S\) は$$r_S(\theta)=\tan\frac{\theta}{2}$$です。既に議論したとおり、等角投影とは \(dr/d\theta = r/ \sin\theta\) を満たすことでした。\(dr_S/d\theta\) は $$\frac{dr_S}{d\theta}=\frac{1}{2\cos^2\frac{\theta}{2}}
$$であり、他方$$
\frac{r_S}{\sin\theta}=\frac{\tan\frac{\theta}{2}}{2\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}}=\frac{1}{2\cos^2\frac{\theta}{2}}
$$です。\(dr/d\theta = r/ \sin\theta\) は常に成り立つ (半径方向と偏角方向の倍率が一致する) ので、この投影は局所角度が保存されます。
なお、ステレオ投影では面積は保存されません。面積要素を考えてみると、$$
\delta A=r_S\,r_S'(\theta)\,\delta\theta\,\delta\varphi
=\tan\frac{\theta}{2}\cdot\frac{1}{2}\sec^2\frac{\theta}{2}\,\delta\theta\,\delta\varphi
$$であり、これを \(\delta S=\sin\theta\,\delta\theta\,\delta\varphi\) と比べると、面積倍率は \(\theta\) に依存して変化することが分かります。
\(Z \lt 0\) 側の点の投影
上述の投影方法は、極点 \(S\) を除く球面上の全ての点に適用できますし等角性も保たれます。\(Z \ge 0\) の球面上の点であれば、平面に投影した点は半径1の円の内部に含まれます。ところが \(Z \lt 0\) 側にある点を投影する場合は平面半径方向の長さが1を超え、特に \(S\) に近い点の場合は平面中心から非常に離れてしまい、作図が困難になることがあります。このため通常のステレオ投影では、
- 投影する球面上の点を \(Z \ge 0\) に限定する
- \(Z \lt 0\) 側の点を投影する場合は反対半球の極 \(N=(0,0,1)\) と直線を結び、赤道面と交わる点を投影する
のどちらかの処置をすることが多いです。後者の場合、半球を区別するために投影点を黒丸と白丸でかき分けることもよく行われます。
ステレオネット (Wulff net)
ステレオ投影法に基づいて緯線や経線などの補助線をプロットした図をステレオネットあるいはWulff net と呼びます。面や方向の相対角度を読み取るには都合がよく、結晶の外形を表現する場合や晶帯や晶帯軸の方位関係を調べる用途に適しています。一方で、密度分布や頻度分布を面積で比較したい場合には、次に述べる等積投影のほうが自然かつ有用です。
ステレオネット (極中心)
ステレオネット (赤道中心)
ランベルト正積方位投影(等積投影)
ランベルト投影の幾何学
ランベルト正積方位投影 (Lambert azimuthal equal-area projection) は、球面上の面積を平面上へそのまま移すように設計された方位投影です。\(Z \ge 0\) 側の極 \(N=(0,0,1)\) に接する平面を考えます。さらにその平面に垂直な、\(N\) が中心で点 \(P\) を通る円を考えたとき、円と平面との交点が投影点 \(P’\) になります。
この投影によって球面上の点 \(P=(x,y,z)\) は次のように平面上の点 \(P′=(X,Y)\) に変換されます。$$
(X,Y)=\left(
\sqrt{\frac{2}{1+z}}\,x,\ \sqrt{\frac{2}{1+z}}\,y \right)
$$ \(Z \ge 0\) 側の点は半径 \(\sqrt{2}\) の円の内部に写ります。これは半球の表面積と等しい面積を持つ円です。\(Z \lt 0\) 側まで含めた全球上の点は半径 \(2\) の円の内部に写ります。これは全球の表面積と等しい面積を持つ円です。

この変換の逆写像は以下の通りです。$$
(x,y,z)=\left(
X\sqrt{1-\frac{X^2+Y^2}{4}},\ Y\sqrt{1-\frac{X^2+Y^2}{4}},\ 1-\frac{X^2+Y^2}{2}
\right)$$
等積性
この投影が本当に等積性を持つか、確認してみましょう。\((X,Y)\) を \(\theta\) と \(\varphi\) で表現すれば$$
\left(\sqrt{\frac{2}{1+z}}\,x,\ \sqrt{\frac{2}{1+z}}\,y \right)=
\left(\sqrt{\frac{2}{1+\cos\theta}}\,\sin\theta\cos\varphi,\ \sqrt{\frac{2}{1+\cos\theta}}\,\sin\theta\sin\varphi \right)
$$ですから、球面上の余緯度 \(\theta\) を平面上の半径に変換する関数 \(r_L\) は
$$r_L(\theta)=\sqrt{\frac{2}{1+\cos\theta}}\,\sin\theta=\sqrt{2(1-\cos\theta)}= 2\sin\frac{\theta}{2}
$$となり、その微分は$$
\frac{dr_L}{d\theta}=\cos\frac{\theta}{2}
$$です。したがって、平面の面積要素は$$
\delta A=r_L\frac{dr_L}{d\theta}\,\delta\theta\,\delta\varphi
=2\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}\,\delta\theta\,\delta\varphi
=\sin\theta\,\delta\theta\,\delta\varphi
$$となります。右辺は球面の面積要素 \(\delta S\) そのものですから、\(\delta A=\delta S\)が常に成り立ちます。
一方、ランベルト投影では角度は保存されません。経線方向の倍率と緯線方向の倍率を比較してみると、$$
\frac{dr_L}{d\theta}=\cos\frac{\theta}{2},\qquad
\frac{r_L}{\sin\theta}=\frac{2\sin(\theta/2)}{2\sin(\theta/2)\cos(\theta/2)}=\frac{1}{\cos(\theta/2)}
$$です。一般に \(\cos(\theta/2) \neq 1/\cos(\theta/2)\) ですから、二つの方向の倍率は一致しません。したがって、この投影は面積を正しく写しますが、形や角度は歪んでしまいます。
シュミットネット (Schmidt net)
ランベルト正積方位投影に基づくネットをシュミットネット (Schmidt net) と呼びます。方位密度関数 (Orientation Distribution Function, ODF) や断層の滑り方向の確率分布のように、単位立体角あたりの頻度を比較したいときには等積性が重要ですので、シュミットネットがよく使われます。なお、分野や文脈によってはシュミットネットのことを広い意味で「ステレオネット」と呼ぶこともありますのでご注意ください。
シュミットネット (極中心)
シュミットネット (赤道中心)
ロスカ-ランベルト投影
これまでの説明はどの教科書にも書いてあるような古典的な投影法でした。次に説明する手法は比較的最近発表された論文に基づく少し変わった投影法です。
ランベルト正積方位投影は半球上の点を半径 \(\sqrt{2}\) の円板の内部に投影します。球面を円に写すのは幾何学的には自然ですが、数値計算や画像処理においては正方形や正六角形の格子のほうが扱いやすい場合もあります。ロスカ-ランベルト投影 (Rosca-Lambert equal-area projection) は、まず平面上の多角形領域を円板に写し、さらにランベルト逆写像を用いて円板から球面へ持ち上げるという、二段階の構成です。平面上での多角形から円への等積変換がこの手法の核心です。
正方グリッド版1
正方形から円板へのロスカ変換
まず、単位球の半分の表面積 (\(=2\pi\)) と等しい正方形$$
S={(a,b)\in\mathbb{R}^2\mid |a|\le \sqrt{\frac{\pi}{2}},\ |b|\le \sqrt{\frac{\pi}{2}}}
$$と円板$$
C={(A,B)\in\mathbb{R}^2\mid A^2+B^2\le 2}
$$を考えます。
正方ロスカの写像は正方形を 8 つの扇形領域に分けて定義します。代表的な場合だけ書けば、
領域 \(1\): $$(A,B)=\left(\frac{2a}{\sqrt{\pi}}\cos\frac{\pi b}{4a},\ \frac{2a}{\sqrt{\pi}}\sin\frac{\pi b}{4a}\right), \qquad 0<|b|\le |a|\le \sqrt{\pi/2}$$
領域 \(2\): $$(A,B)= \left(\frac{2b}{\sqrt{\pi}}\sin\frac{\pi a}{4b},\ \frac{2b}{\sqrt{\pi}}\cos\frac{\pi a}{4b}\right), \qquad0<|a|\le |b|\le \sqrt{\pi/2}$$
残りの6領域についてはこの2つを \(90^\circ\) ずつ回転することによって得られます。この式を見ると、\(|a|\) か \(|b|\) のどちらか大きい方が円板半径を決定し、比 \(b/a\) または \(a/b\) が偏角を決めていることが分かります。すなわち、同心正方形状の層を円板の同心円へ並べ替えているということです。
正方ロスカ変換のヤコビアン
正方ロスカ変換 \((a,b)\to(A,B)\) のヤコビ行列を \(J_{R_T}(a,b)\) とします。領域 \(1\) の場合、\(s=\frac{\pi b}{4a}\) とおくと、ヤコビ行列は$$
J_{R_T}(a,b)=\begin{pmatrix}
\frac{2}{\sqrt{\pi}}\cos s+\frac{\sqrt{\pi}b}{2a}\sin s & -\frac{\sqrt{\pi}}{2}\sin s\\[1ex]
\frac{2}{\sqrt{\pi}}\sin s-\frac{\sqrt{\pi}b}{2a}\cos s & \frac{\sqrt{\pi}}{2}\cos s
\end{pmatrix}
$$となります。この行列式を計算すると、\(\det J_{R_T}(a,b)=1\)が得られます。領域 \(2\) でも式の対称性からやはり \(\det J_{R_T}=1\) が得られます。つまり正方ロスカ変換はどの領域でも常にヤコビアンが 1 の等積写像です。
正方グリッドの球面投影
正方ロスカもランベルトも等積写像ですから、その合成や逆写像も当然等積です。ランベルト逆写像は$$
(x,y,z)=\left(A\sqrt{1-\frac{A^2+B^2}{4}},\ B\sqrt{1-\frac{A^2+B^2}{4}},\ 1-\frac{A^2+B^2}{2}\right)
$$であり、これを正方ロスカと合成すると、たとえば領域 \(1\) では$$
(x,y,z)= \left(\frac{2a}{\sqrt{\pi}}\sqrt{1-\frac{a^2}{\pi}}\cos\frac{\pi b}{4a},\ \frac{2a}{\sqrt{\pi}}\sqrt{1-\frac{a^2}{\pi}}\sin\frac{\pi b}{4a},\ 1-\frac{2a^2}{\pi}\right)
$$となります。同様に領域 \(2\) では$$
(x,y,z)= \left(\frac{2b}{\sqrt{\pi}}\sqrt{1-\frac{b^2}{\pi}}\sin\frac{\pi a}{4b},\ \frac{2b}{\sqrt{\pi}}\sqrt{1-\frac{b^2}{\pi}}\cos\frac{\pi a}{4b},\ 1-\frac{2b^2}{\pi}\right)
$$です。
それでは実際に正方形を分割し、各領域がどのように球面に写るのかをみていきましょう。まず、\(3\times3\) の正方形グリッド、正方ロスカ変換による円板グリッド、さらにそれを逆ランベルト変換して球面に投影した図を示します。
正方格子 \(3\times3\)

正方ロスカ変換

正方ロスカ変換の逆ランベルト変換

領域の対応が分かるように色を付けて示しています。対角線と重なる正方形は正方ロスカ変換によって三角領域に変換され、原点を中心とする正方形の外周は緯線に変換されることが分かります。次に \(8\times8\) を示します。
正方格子 \(8\times8\)

正方ロスカ変換

正方ロスカ変換の逆ランベルト変換

最後は \(32\times32=1024\) です。
正方格子 \(32\times32\)

正方ロスカ変換

正方ロスカ変換の逆ランベルト変換

通常の緯線・経線グリッドでは、極で経度が退化するため座標特異性が生じます。一方、ロスカ-ランベルト変換を用いると、より均質な等面積分割に基づいて球面を扱うことができます。また、球面領域を正方行列で表現できることから、プログラミングコードに載せやすい、補間計算がしやすい、などのメリットもあります。さらに結晶学の立場から、正方グリッドが持つ対称性 (すなわち点群 \(4/mmm\)) が計算対象の結晶の対称性と合致する場合は、計算領域を減らせる2ため計算時間短縮も期待できます。
六方グリッド版
正方ロスカ変換は優れた手法ですが、計算対象の結晶の対称性 (例えば三方/六方晶系) によっては六方グリッドの方が有利な場合もあります。そこでロスカらは、正六角形から円板への等積写像方法も構築しました3。
正六角形から円板への写像
正方グリッド版と同様に単位球の半分の表面積 (\(2\pi\)) と等しい面積をもつ正六角形を考えます。正六角形 (面積 \(2\pi\)) の内接円の半径を \(L\) とすると、$$
\frac{6L^2}{\sqrt{3}}=2\pi\quad \to \quad L^2=\frac{\pi}{\sqrt{3}}
$$となります。次に正六角形を図のように12分割の領域 (dodecant) に分けます。例えば領域 \(1\) に含まれる点 \(a,b\) は $$
\left\{(a,b)\in\mathbb{R}^2\ \middle|\ 0\le b\le \frac{a}{\sqrt{3}},\ 0\le a\le L\right\}
$$です。六方ロスカ変換では、このような領域ごとに写像が定義されます。
領域 \(1\) の写像は$$
(A,B)=\frac{\sqrt{2}\,a}{L}\left(\cos\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a},\ \sin\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a}\right)
$$と定義されます。すなわち、\(a\) の値が円板上の半径 \(\sqrt{2}\,a/L\) に写り、傾き \(b/a\) が偏角 \(\frac{\pi}{2\sqrt{3}}\cdot\frac{b}{a}\) に写るという構造です。領域 \(12\) と領域 \(1\) は直線 \(y=0\) に関して鏡映の関係にあり、残りの 10 個の領域はこの 2 つを \(60^\circ\) ずつ回転させて得られます。
六方版のヤコビアン条件
この写像が本当に等積であることを確かめてみましょう。\(s=\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a}\) とおくと \(A=\frac{\sqrt{2}\,a}{L}\cos s\)、\(B=\frac{\sqrt{2}\,a}{L}\sin s\) ですから、ヤコビ行列は$$
J_{R_H}=\begin{pmatrix}\frac{\partial A}{\partial a} & \frac{\partial A}{\partial b}\\[1ex]\frac{\partial B}{\partial a} & \frac{\partial B}{\partial b}\end{pmatrix}=\frac{\sqrt{2}}{L}\begin{pmatrix}\cos s+\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a}\sin s & -\frac{\pi}{2\sqrt{3}}\sin s\\[1ex]\sin s-\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a}\cos s & \frac{\pi}{2\sqrt{3}}\cos s\end{pmatrix}
$$と表現できます。行列式を求めると、$$
\det J_{R_H}=\frac{2}{L^2}\cdot\frac{\pi}{2\sqrt{3}}\bigl(\cos^2 s+\sin^2 s\bigr)=\frac{1}{L^2}\cdot\frac{\pi}{\sqrt{3}}=1
$$となります。領域 \(12\) でも式の対称性からやはり \(\det J_{R_H}=1\) となりますから、六方ロスカ変換はすべての領域で常にヤコビアン 1 の等積写像です。
六方グリッドの球面投影
六方ロスカ変換とランベルト逆写像はどちらも等積ですから、その合成も等積です。例えば領域 \(1\) の合成写像 \((a,b)\to(x,y,z)\) は$$
(x,y,z)=\left(\frac{\sqrt{2}\,a}{L}\sqrt{1-\frac{a^2}{2L^2}}\cos\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a},\ \frac{\sqrt{2}\,a}{L}\sqrt{1-\frac{a^2}{2L^2}}\sin\frac{\pi b}{2\sqrt{3}\,a},\ 1-\frac{a^2}{L^2}\right)
$$となります。残りの領域についても、この式を鏡映、回転、あるいは鏡映+回転すれば求まります。
実際の例を見てみましょう。六方グリッドの場合は、全体領域六角形の辺の分割数を \(n\) とすると、セルの数は \(6n^2\) となります。\(n=2, 16\) のケースを掲載します。
六方格子 \(n=2\)
六方ロスカ変換

六方ロスカ変換の逆ランベルト変換

六方格子 \(n=16\)

六方ロスカ変換

六方ロスカ変換の逆ランベルト変換

六方グリッドが持つ対称性は点群 \(6/mmm\) です。この点群と共通の部分群をもつような結晶を計算対象とする場合は相性の良い計算手法です。
ロスカ-ランベルト投影の特徴
以上のようにロスカ-ランベルト投影は、ジンバルロック問題を回避し、結晶格子と相性のよい等積座標を実現できます。特に正方グリッド版は
- 二次元配列によるコード実装が容易
- 補間計算が容易
- 点群 \(4/mmm\) およびその部分群と相性がよい
という利点があります。 一方六方グリッド版では、これらの利点は若干失われますが
- 点群 \(6/mmm\) およびその部分群と相性がよい
という利点があります。
まとめ
球面投影法は、結局のところ「ヤコビ行列のどんな性質を保存したいか」という問題です。
- ステレオ投影は、半径方向と接線方向の局所倍率を一致させることで等角になる
- ランベルト正積方位投影は、面積要素を一定にすることで等積になる
- ロスカ-ランベルト投影は、平面上の格子領域から円板への等積写像と、円板から球面へのランベルト逆写像を合成することで、格子の扱いやすさと等積性を両立する
角度関係を重視するなら Wulff net、面積密度を比較するなら Schmidt net、さらに数値実装や対称性との相性を重視するならロスカ-ランベルト型の表現が有効です。
脚注
- D. Rosca, “New uniform grids on the sphere”, Astronomy & Astrophysics, 520, A63 (2010). ↩︎
- 正確に言うと、対象とする結晶の点群と \(4/mmm\) との共通最大部分群を \(G\) としたとき、 \(G\) の対称性に従って正方グリッドの計算領域を減らすことが出来るということです。 ↩︎
- D. Rosca and M. De Graef, “Area-preserving projections from hexagonal and triangular domains to the sphere and applications to electron back-scatter diffraction pattern simulations”, Modelling Simul. Mater. Sci. Eng. 21 (2013) 055021. ↩︎