書きかけ
空間群は230種類あります。これらは互いに無関係なわけではなく、共通の性質に注目して分類することができます。ここではマニアックなものも含めていくつか紹介します。
結晶類、結晶族点群
「2.3. 部分群・剰余群の概念」のところで述べたように、すべての空間群について並進群を法とした剰余群を導いたとき、それらは32種類の結晶族点群のいずれかに対応します。このような分類を結晶類1 (crystal class) あるいは幾何学的 (geometric) 結晶類 といいます。結晶類と結晶族点群は一対一で対応し表記も全く一緒ですが、概念は微妙に異なることにご注意ください。前者は空間群に対応する点群を指しており、後者は点群そのものです。一般に結晶類は結晶のマクロな性質に深く関連します。なぜなら、結晶類は巨視的な結晶の外形を形態学的対称性に従って群に分類したものに対応するからです。例えば結晶の外形や各種物性 (弾性率、熱伝導率、透磁率など) は結晶類で表現される点群の対称性に従います。
ある空間群がどの結晶類に属しているかは、実は次のような簡単な記号の置き換えや削除によって知ることができます。すなわち空間群表記 (HM表記) から
- 最初の一文字 (格子の記号) を削除
- すべての下付き数字 (らせん軸の並進情報) を削除
- すべての小文字アルファベット (映進操作) を \(m\) に変換
すればよいのです。例えば空間群 \(Fd\bar{3}m\) の結晶類は \(m\bar{3}m\)であり、空間群 \(P6_422\) の結晶類は \(622\) となります。
代数的結晶類、共型空間群
代数的結晶類 (arithmetic crystal class) とは、(幾何学的)結晶類にブラベー格子を組み合わせた概念です。結晶類が32種類であったのに対し代数的結晶類は73種類あります。代数的結晶類は共型空間群 (symmorphic space groups) と一対一の対応関係があります。共型空間群とは、らせんと映進の対称操作を含まず、点群操作と格子並進操作のみを組み合わせてできる空間群のことです。例えば空間群 \(Fm\bar{3}m\) は共型空間群のひとつですが、 \(I4_1acd\) は共型部分群ではありません。
ブラベー格子、ブラベー代数的類
既に別ページでも説明していますが、ブラベー格子(Braavais lattice, Bravais type of lattice2)とは、単純単位胞の頂点にのみ原子が存在するような結晶を仮定し、単位胞の形状をいろいろ変化させると、何種類の空間群で表現できるか?という発想に基づいています。このような格子は14種類あります。以下にブラベー格子を再掲し、さらにそれらに対応する空間群(格子を並べたときの対称性)と点群(格子ひとつ(=単位胞)の対称性)を記載します。
記号 | 模式図 | 空間群 | 点群 |
---|---|---|---|
\(aP\) | \(P\bar{1}\) | \(\bar{1}\) | |
\(mP\) | \(P2/m\) | \(2/m\) | |
\(mC\) | \(C2/m\) |
記号 | 模式図 | 空間群 | 点群 |
---|---|---|---|
\(oP\) | \(Pmmm\) | \(mmm\) | |
\(oC\) | \(Cmmm\) | ||
\(oI\) | \(Immm\) | ||
\(oF\) | \(Fmmm\) | ||
\(tP\) | \(P4/mmm\) | \(4/mmm\) | |
\(tI\) | \(I4/mmm\) |
記号 | 模式図 | 空間群 | 点群 |
---|---|---|---|
\(hR\) | \(R\bar{3}m\) | \(\bar{3}m\) | |
\(hP\) | \(P6/mmm\) | \(6/mmm\) | |
\(cP\) | \(Pm\bar{3}m\) | \(m\bar{3}m\) | |
\(cI\) | \(Im\bar{3}m\) | ||
\(cF\) | \(Fm\bar{3}m\) |
当然実際の結晶は単位胞の頂点以外の場所にも原子が存在していますが、空間群の並進対称要素にだけ注目すれば、すべての結晶は上記の14種類のいずれかに必ず分類できます。この分類をブラベー代数的類 (Bravais arithmetic class) といいます。ブラベー格子(タイプ)とブラベー代数的類は一対一で対応します。ただし両者の混同を避けるため、ブラベー代数的類は空間群表記中の格子記号を最後にして、さらに底心格子記号を\(S\)と変換して、例えば \(mmmI\) (空間群\(Immm\)に対応)とか \(2/mS\)(空間群\(C2/m\)に対応) と書く決まりになっています。
結晶系、結晶族、格子系
これらはかなり混乱しやすい用語です。まあ、混乱した状態でも実用上はたいして困らないかもしれませんが、すこしだけ掘り下げてみましょう。
格子系
ます格子系については上のブラベー格子の表を見るとわかりやすいでしょう。格子ひとつ (単位胞) の対称性は7種類の点群に分類されています。これを、格子系 (lattice system)といいます。
アフィン空間群
「2.4. 群の乗積表・同型」のところで述べたように、230種類の3次元空間群のうち、以下の11のペアは互いに同型です。
- 正方晶系: \(P4_1\)と\(P4_3\)、\(P4_122\)と\(P4_322\)、\(P4_12_12\)と\(P4_32_12\)
- 三方晶系: \(P3_1\)と\(P3_2\)、\(P3_121\)と\(P3_221\)、\(P3_112\)と\(P3_212\)
- 六方晶系: \(P6_1\)と\(P6_5\)、\(P6_2\)と\(P6_4\)、\(P6_122\)と\(P6_522\)、\(P6_222\)と\(P6_422\)
- 立方晶系: \(P4_132\)と\(P4_332\)
各ペアは 鏡像異形 (enantiomorphic) の関係を持っています。これら11ペアの同型重複を同一とみなした 219 種類の空間群をアフィン空間群 (affine space-group types) といいます。一方同型重複を許した230種類を真アフィン空間群(proper affine space-group types) といいます。通常、空間群といえば後者の方を指します。
脚注
- crystal class を「晶族」 と訳す場合もあります。ただこのように訳すと、今度は crystal familyをどう訳せばいいかという問題が生じます。このHPでは crystal class は結晶類で統一します。https://dictionary.iucr.org/Crystal_class ↩︎
- IUCRの勧告によれば、ブラベー格子は、個別の格子そのものではなく、格子の種類を表す概念なので、Bravais type of lattice と表現することが勧められています。日本語でもブラベー格子タイプと表現した方がいいのかもしれませんね。
https://dictionary.iucr.org/Bravais_lattice ↩︎