2.3. Notation for Point Groups and Space Groups (HM Symbols)

 point groupやspace groupに関する議論を本格化する前に、それらの記法 説明します。point groupやspace groupの記法にはいくつか流儀があるのですが、ここではcrystal学で最も広く使われているヘルマン・モーガン記号 (Hermann–Mauguin1 symbol, belowHM記号) の記法を説明します。

 HM記号は、「1.2. 対称性とsymmetry operation/要素」のページで説明したsymmetry elementの記号を組み合わせて表現します。まず、point groupの記法を説明し、続いてspace groupの記法を説明します。


point group

 point groupとは、前ページで説明したように、不動点を持つsymmetry operationの集合です。point groupは無限に存在しますが、ここでは並進対称と両立しうる操作のみを組み合わせたcrystal族point group (crystallographic point groups, 詳しくは別ページsee) に限定して表記法を説明します 。

point groupと単位格子の関係

 本題に入る前に、少し天下り的ですが話を整理しておきます。全てのcrystalは230種類のspace groupに分類され、space groupは32種類のcrystal族point groupに分類されます。crystal族point groupは7種類のcrystal系に分類され、crystal系は6種類のcrystal族 (crystal families) に分類されます2。つまり、crystal族point groupから上に登ればなんらかの単位格子を持つcrystalにたどり着き、下っていけば最下層のcrystal族という分類にたどり着きます。crystal族とは、7種類のcrystal系からtrigonal crystal systemとhexagonal crystal systemをまとめたものであり単位格子の形状による分類と考えることができます。i.e.,、本来point groupと単位格子は縁もゆかりもない概念なのですが、「crystal族」point groupに限れば単位格子と結び付けて考えることができるわけです。
 各crystal族には、単位格子の形状を特徴づけるユニークなsymmetry element (rotation axisやrotoinversion axis) が存在3し、その方向を主軸といいます。ユニークなsymmetry elementが二つ以上ある場合は、それらの方向を副軸1, 副軸2とよびます。主軸や副軸の方向を単位格子の各辺 (a, b, c) の方向と対応付けるルールがbelowのように定められています。

crystal族 主軸
(primary)
副軸1
(secondary)
副軸2
(tertiary)
三斜(triclinic)
単斜 (monoclinic) (textbf{b})
直方 (orthorhombic) (textbf{a}) (textbf{b}) (textbf{c})
正方 (tetragonal) (textbf{c}) (textbf{a}) = (textbf{b}) ([110]) = ([1bar{1}0])
六方4 (hexagonal) (textbf{c}) (textbf{a}) = (textbf{b}) = ([bar{1}bar{1}0]) ([1bar{1}0]) = ([120]) = ([bar{2}bar{1}0])
立方 (cubic) (textbf{a}) = (textbf{b}) = (textbf{c}) ([111]) = ([bar{1}11]) = ([1bar{1}1]) = ([11bar{1}]) ([110]) = ([1bar{1}0]) = ([011]) = ([01bar{1}]) = ([ 101]) = ([bar{1}01])

等号 = の記号は、crystal学的に等価な方向であることを示します。Ex.えば立方晶族 (cubic crystal system) では (a) = (b) = (c) と書かれていますが、これは立方晶族のユニークなsymmetry elementである ([111]) 方向の3回回転によって、(a), (b), (c) が全く同じ性質をもつということを意味しています。従って、立方晶族の主軸は(a), (b), (c)の三つです。正方、六方、立方の副軸 も同様です。

point groupの記法

 さていよいよ本題です。HM記号では、point groupはbelowのように(最大)三つの要素を並べて表現します。$$
Large X Y Z$$

三つの要素 (X, Y, Z) は各crystal族で定義される主軸 (primary)、副軸1 (secondary)、副軸2 (tertiary) の方向にそれぞれ対応します。これらの方向に沿ってsymmetry elementが存在するので、対称方向 (symmetry direction) ということもあります。(X, Y, Z) に書き込むのはsymmetry elementの記号((1, 2, 3, 4, 6, bar{1}, m, bar{3}, bar{4}, bar{6})) です。ひとつの対称方向に回転(2, 3, 4, 6)と鏡映 (m)5が同時に存在する場合は、Ex.えば (2/m)のように、スラッシュ”(/)”で結びます6。 三斜を除くcrystal族では、主軸方向のsymmetry elementを(X) に記載します。 三斜晶族には主軸がありませんが、代わりに恒等要素 (1) かcentre of symmetry (bar{1}) を (X) に記載します。つまり (X) が空白になることはありません。一方、副軸にsymmetry elementが存在しない場合は、(Y, Z) は省略します。ルールはこれだけです。すべてのcrystal族point groupとそれらがどのcrystal族(系)に属するかは別ページにまとめていますので、ここでは二つほどのEx.を説明するにとどめておきましょう。

point groupのEx.

(2/m)

 このpoint groupは、単斜晶族に属します。従ってこの記号の意味は、主軸である (b) 軸の方向に2回回転 (2) と鏡映 (m)が同時に存在するという意味になります。

(3 m)

 このpoint groupは、六方晶族に属します。従ってこの記号の意味は、主軸である (c) 軸の方向に3回回転 (3) が存在し、副軸1である (a), (b) および ([bar{1}bar{1}0]) のすべての方向に鏡映 (m) が存在するという意味になります。副軸2は恒等要素 (1) しかありません。(3 m 1) と書いても間違いではありませんが、通常は(3 m) と書きます。

 ところで、副軸1が (1) で副軸2が (m)であるような場合はどのように書いたらいいでしょうか?一瞬 (3 1 m) と書いたらいいような気がしますが、(3 1 m) を (c) 軸の周りに1/6 回転すれば (3 m) と全く等価 (isomorphism) ですから、区別する必要はありません。where、後述するようにspace groupの場合にはこの二つを区別する必要があります。

(bar{6} m 2)

 このpoint groupは、六方晶族に属します。従ってこの記号の意味は、主軸である (c) 軸の方向に6回回反 (bar{6}) が存在し、副軸1である (a), (b) および ([bar{1}bar{1}0]) のすべての方向に鏡映 (m)が存在し、副軸2である ([1bar{1}0]) および ([120]), ([bar{2}bar{1}0]) のすべての方向に2回回転 (2) が存在するという意味になります。  


space group

space groupの記法

 space groupはbelowのように(最大)四つの要素を並べて表現します。$$Large W X Y Z$$

(W) には、格子のタイプ ((P, A, B, C, I, F, R)) を記載します。空白になることはありません。(X, Y, Z) は基本的にはpoint groupの記法と同じルールですが、注意が必要な点をいくつか紹介します。

 まず (X, Y, Z) が対応する対称方向は、point groupのルールに準拠します。where単斜晶族を完全表記 (detailsは後述) で記載する場合に限って、point groupのルールには従わず (X, Y, Z) を (a, b, c) 軸方向に対応させるというEx.外があります。 (X, Y, Z) に記載するsymmetry elementは、回転、回反、centre of symmetry、鏡映、らせん、映進の全てが対象となります。回転あるいはらせんが、鏡映あるいは映進と同一の対称方向に存在する場合は、point groupの場合と同様にスラッシュ”(/)”で結びます。

 またspace groupでは、対称方向は同じだが複数のsymmetry elementが交わらないで存在することがあります7。このような場合にどのsymmetry elementを優先して記載すればいいか、belowのようにルールが決められています。

さらに、point groupの場合は恒等要素(1)が登場するのはpoint group(1)の場合のみでしたが、space groupでは軸との関係を明確にするため(P1)以外のspace groupでも(1)が登場することがあります。

 いくつかのEx.をbelowに示します。230種類のspace groupは別のページにまとめています。

Ex.

(C 1 2/m 1)

 このspace groupは、単斜晶族に属します。最初の文字 (C) は底心格子であり、(textbf{a}), (textbf{b}), (textbf{c}) に加えて (1/2 (textbf{a}+textbf{b})) にも並進ベクトルが存在することを意味します。 (C) に続く(1 2/m 1) は完全表記なので上述のEx.外ケースです。i.e.,、(1), (2/m), (1) はそれぞれが(textbf{a}), (textbf{b}), (textbf{c})方向に対応します。要するにこのspace groupは、 (C) 底心格子で(textbf{b}) 軸方向に(2/m)を有すると解釈できます。

 ところでこのspace groupは、(textbf{b}) 軸方向に (2) と (m) だけでなく、らせん (2_1) や 映進 (a) も有しています。だからと言って、(C 1 2_1/m 1) とか (C 1 2/a 1) とは書きません。上述の優先ルールが適用されるからです。

(P 3 1 m)

 このspace groupは、六方晶族に属します。最初の文字 (P) は単純格子であり、(textbf{a}), (textbf{b}), (textbf{c}) に並進ベクトルが存在します。主軸である (c) には (3)、副軸1には (1)、副軸2である([1bar{1}0]), ([120]) および ([bar{2}bar{1}0]) の方向に(m) が存在します。

 さきほどpoint groupでは (3 m) と (3 1 m) を区別しないと説明しました。これも一緒なんじゃない?と思われたことでしょう。ところが、space groupでは (P 3 m 1) と (P 3 1 m) を区別する必要があるのです。この問題 は改めて別ページで議論しますが、space group記号ではこのEx.のように対称方向を明確にするため恒等要素 (1) が登場することがあります。

(I4/m 2/m 2/m)

 このspace groupは、正方晶族に属します。最初の文字 (I) は体心格子であり、(textbf{a}), (textbf{b}), (textbf{c}) に並進ベクトルが存在します。主軸である (c) には (4/m)、副軸1である (textbf{a}) と (textbf{b}) には (2/m) が存在し、副軸2である([110]) および ([1bar{1}0]) の方向にも (2/m) が存在します。このspace groupはらせんや映進のsymmetry elementも含んでいるのですが、記号上では上述の優先ルールによって回転と鏡映だけが現れています。


完全表記/短縮表記 (Full/short symbol)

 ここまで説明してきたpoint groupやspace groupの表記は完全表記 (Full symbol) と呼ばれるものです。where、「完全」とは言っても本当にすべてのsymmetry elementを羅列するのではなく、恒等要素 (1) や(優先ルールに従って)らせん要素や映進要素が省略される場合もあることにご注意ください。

 完全表記に対して、短縮表記 (short symbol) とは言葉の通りpoint groupやspace groupを少し短く表現する記法です。たとえば、point group (2/m 2/m 2/m)(完全表記) は (m m m) (短縮表記)となります。完全表記を短縮表記に変換するルールはbelowの通りです。

 ひとつ目に関して、なぜ「鏡映・映進」を優先するのでしょう?空間中のある方向にsymmetry elementを配置するとき、回転・screw axisの場合は2つのパラメータが必要ですが、鏡映・映進面の場合は1つだけです。つまり、鏡映・映進面の方が、対称性の性質をより明瞭に表すことができるのです。

 ふたつ目に関しても、もう少し説明が必要だと思われます。そもそもHM記号というのは、完全表記か短縮表記かに関わらず、記号中のsymmetry element(が含むsymmetry operation)をgeneratorと考えると群全体を生成できるようにデザインされています8。generatorとは、その名の通り群全体を生成するための元です(詳しくはこちら)。Ex.えば、point group (2/m 2/m 2/m) は直交する三方向のそれぞれに2回回転 (2) と鏡映 (m) が存在するpoint groupです。ここから三方向の (2) を取り除いたとしても、残った三枚の鏡映 (m) の組み合わせ作用によってどうしても (2) が生じてしまうのです。i.e.,、直交する三方向の鏡映 (m) によってpoint group (2/m 2/m 2/m) は完全に生成されるので、短縮表記で (m m m) と表現します。一方、point group (4/m) 鏡映 (m) だけを残したとしたら、単なるpoint group (m) になってしまいます。もととは異なる性質になってしまいますから、 4回回転 (4) を省略することはできず、短縮表記でも (4/m) のままです。

 すべてのcrystal族point groupおよびspace group の完全/短縮表記は別のページにまとめています (crystal族point groupspace group) ので、参考にしてください。


Footnotes

  1. Hermann-Mauguin notationは、Hermann (1928, 1931)とMauguin (1931)によって提案され、ITAの前身である Internationale Tabellen zur Bestimmung von Kristallstrukturen (1935)に導入されました。 ↩︎
  2. このあたりの分類の話は、改めて「3.7.space groupの分類」ページで説明します。Note:、crystal族point groupとcrystal族は、どちらも「crystal族」という言葉を含みますが、これは単なる日本語訳の問題です。英語では、前者は crystallographic, 後者は crystal family です。 ↩︎
  3. 正確には、crystal族とはcrystal系と格子系の食い違いを吸収した概念です。これ も「3.7. space groupの分類」ページで説明します。 ↩︎
  4. 念のため、六方晶族はtrigonal crystal systemとhexagonal crystal systemをまとめた分類です。 ↩︎
  5. 鏡映 (や映進)は、その法線方向がsymmetry elementの方向です。 ↩︎
  6. 回反と鏡映が同じ方向に存在したとしても、belowのように結局は回転と鏡映の組み合わせで表現することが可能なため、考慮する必要はありません。
    (bar{1}/m=2/m, bar{3}/m=6/m, bar{4}/m =4/m, bar{6}/m =3/m) ↩︎
  7. point groupでは全てのsymmetry elementが不動点を通ります。 ↩︎
  8. HM記号が必ずしも必要最小限のgeneratorだけで構成されるという意味ではありません。 ↩︎
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