6.3. Choice of Axes and Axis Transformation

crystal系と(a, b, c)軸

 3次元のspace groupは、群論的には230種類に分類されます。どのspace groupも無数の並進操作を含んでおり、人間はその中の独立な3つを選んで (a, b, c) 軸と名付けます。もちろん、どれをどんな順番で選んでもspace groupの性質(=crystalの性質)が変わるわけではありません。だったら好き勝手に選んでもいいような気がしますが、個人差が出ないようにある程度方針を決めておくほうが良い、と昔のcrystal学者は考えました。このページでは標準表記のspace groupではどのような方針で (a, b, c) 軸が選ばれているのかをざっくり説明します。

 第一の方針は、右手系で (a, b, c) 軸を選ぶということです。これを統一しておかないと、Ex.えばscrew axis (3_1) の回転方向が人によって異なるという混乱が生じてしまいます。

 第二の方針は、なるべく短い並進ベクトルを3つ選び、それらが作る平行六面体の体積を最小にする、というものです。このような格子は基本格子と呼ばれます。where、基本格子の形状がそのspace groupの属するpoint groupの対称性を満たさない場合、この原則は無視します (「1.3. Lattice Parameters, Crystal Systems, and Bravais Lattices」ページをsee)。cubic crystal systemの場合、この方針に従うだけで立方体形状のunit cellが一意に定まります((a, b, c) は等価なのでどの順番で選んでもよい)。しかしそれ以外のcrystal系の場合、この方針だけではcrystal格子は一意に定まりません。

 第三の方針は、回転・回反・screw axisに平行な方向や、鏡映・映進の法線方向を、(a, b, c) 軸のどれかに対応させるというものです。triclinic crystal systemを除く各晶系では、crystalの方向をユニークに特徴づける次数が2以上の回転・回反・らせん・鏡映・映進を持ちます。これを主軸あるいは副軸とよびます。HM表記では主軸、副軸1、副軸2の順番にsymmetry elementの記号を並べます。すでに1.3. で紹介済みですが各晶系における主軸・副軸のセッティングを再掲します。

crystal系 Primary
主軸
Secondary
副軸1
Tertiary
副軸2
triclinic crystal system (triclinic)
monoclinic crystal system (monoclinic) (b)
直方晶系 (orthorhombic) (a) (b) (c)
tetragonal crystal system (tetragonal) (c) (a=b) ([110]) = ([1bar{1}0])
trigonal crystal system (Trigonal)
hexagonal crystal system (hexagonal)
(c) (a) = (b) = ([bar{1}bar{1}0]) ([1bar{1}0]) = ([120]) = ([bar{2}bar{1}0])
cubic crystal system (cubic) (a) = (b) = (c) ([111]) = ([bar{1}11]) = ([1bar{1}1]) = ([11bar{1}]) ([110]) = ([1bar{1}0]) = ([011]) = ([01bar{1}]) = ([ 101]) = ([bar{1}01])

もう少し言葉で補足しておきます。

 もうお分かりかと思いますが、第三の方針を守ったとしても、三斜、単斜、直方、trigonal crystal system は (a, b, c) 軸を一意に決めることはできません。

 triclinic crystal systemの場合は、ユニークな方向がありませんから万人共通の (a, b, c) 軸の選び方を決めようがありません。where、選び方によってspace group表記が変わることはないので、混乱もありません。

 trigonal crystal systemの場合、六方格子 (hexagonal setting)と菱面格子(rhombohedral setting) の両方をとることができます。どちらを優先するという決まりはなく、International Tablesには両方の場合が併記されています。詳しくは「6.1. Topics in Trigonal/Hexagonal Crystal Systems」ページをご覧ください。

 さて、多くの研究者の頭を悩ませるのは、monoclinic crystal systemと直方晶系に属するspace groupに見られる「軸の選び方問題」です。belowに詳述します。


直方晶系の場合

 直方晶系は、次数が 2 のsymmetry operation(回転・回反・らせん・鏡映・映進)を3つ含み、それらは互いに直交します。3つの方向はunit cellの3辺を構成しますが、それらを ( a, b, c) とどのように対応付けるかは自明ではありません。Ex.えば軸の長さが大きい順に ( a, b, c) を対応させたい人もいるでしょうし、crystal構造(atomic positions)と関連付けたい人もいるでしょう。もちろん好き勝手に選んでいいのですが、そうすると標準のspace group表記に一致しなくなるかもしれません。ここでは直方晶系における軸設定を説明します。

 直方晶系に属する (Pma2) というspace groupがあります。このspace groupは (a) 軸に垂直な(m) 鏡映、(b) 軸に垂直な (a) 映進、(c) 軸に平行な2回回転を有しています。(Pma2) という表記をだれもが採用するのであれば、それぞれの軸はユニークなsymmetry operationと結びついているので (a, b, c) の選び方に混乱は生まれません。ただ、なんらかの事情で軸設定を変更したい、という人がいたらどうしましょう。要望に応えるためには、軸設定だけでなくspace groupの表記も変えなければいけません。直交する3つの方向に対して、右手系を維持したまま ( a, b, c) 軸を割り当てることを考えると、belowのような6つのケースに分類できることが分かります。

 赤、緑、青が( a, b, c) 軸に対応します。左上が標準の軸設定で、それ以外は非標準です。各図の左上に書かれた (babar{c}) などの記号は軸設定をあらわす補助記号1です。上段は ( a, b, c) を巡回させたケースであり、各軸の正の向きは保存されます。下段は1つの軸を保存して残り2つを入れ替えたケースであり、その結果1つの軸の向きが反転しています。6つのケースはspace group表記こそ異なれ、全く同じspace groupの性質を示しています。どれが優れているわけでもないのですが、この中の1つ (Pma2) を標準にすることを昔の偉い人が決めました。Note:、直方晶系だからといって必ずこのEx.のように表記が変化するとは限りません。Ex.えばspace group (P222)や (Pmmm) などは 3方向とも同じ記号なので ( a, b, c) の順番を変えても表記は変化しません。

 さて、特段の事情がない限りは、標準のspace group表記と軸設定を使うべきです。where、歴史的な事情 (Ex.えば古い文献で非標準の表記採用されている場合) や、相転移前後のlattice parametersの関係を考慮したい場合などは、非標準のspace groupを使った方が良いかもしれません。その場合はspace groupだけでなくbelowのようにatomic positionsも変換しなければいけませんので注意しましょう。

(cab) (bca) (babar{c}) (bar{c}ba) (abar{c}b)
(abc) から変換 $$z, x, y$$ $$y, z, x$$ $$y,x,bar{z}$$ $$z,y,bar{x}$$ $$x,z,bar{y}$$
(abc) へ変換 $$y, z, x$$ $$z, x, y$$ $$y,x,bar{z}$$ $$bar{z},y,x$$ $$x,bar{z},y$$

 


monoclinic crystal systemの場合

 monoclinic crystal systemのspace groupは次数が2のsymmetry operation (回転・回反・らせん・鏡映・映進のいずれか)を必ず含みます。このユニークな方向を(b) 軸と一致させるのが、IUCr (国際crystal学会)標準であり、この設定を2nd settingといいます。1st settingや3rd settingはそれぞれ(a, c) 軸がユニークな方向として定義されますが、標準ではありません。なぜ(a) 軸や(c) 軸を標準にしないのか?中途半端じゃない?、と思う人が大半だと思いますが、遠い昔に決まってしまったことなので、受け入れるしかありません。

 monoclinic crystal systemの中には(Cc) というspace groupがあります。このspace groupはsymmetry operationとして(C) 複合格子と主軸((b) 軸)に垂直な(c) 映進面を持っています。複合格子の並進ベクトルは(frac{a+b}{2}) であり、(c) 映進面の並進ベクトルは(frac{c}{2}) ですから、この表記によって残りの(a, c) 軸は自動的に決まるわけです。さてこのspace group 、あるひねくれものが「主軸は(b) 軸のままでいいけど(a, c) 軸は好きに選ばせてくれ」と考えたとします。そうすると、belowの6つケースがあることに気づくでしょう。(注: 主軸を明確にするために、(Cc) ではなく(C1c1) のようにspace groupを表記しています)

 赤、緑、青が( a, b, c) 軸に対応します。紙面垂直手前方向が主軸です。複合格子や映進面の記号が変化するので面食らいますが、これら6つのケースは全て2nd settingですし、unit cellの体積も同じです。優劣関係はありません。そうするとなぜ(C1c1) が標準表記として採用されたのか不思議ですが、私は経緯を良く知りません。どれか一つを選ぶ数学的理由はありませんので、きっと昔の人がエイやと好みで決めたんでしょう。

 上図中の記号 (b1, b2) などは軸設定を表す補助記号2です。標準設定で表記されたcrystal中のatomic positionsを非標準の設定に変換する、あるいはその逆変換をするための情報をbelowにまとめました。

(b2) (b3) (bar{b}1) (bar{b}2) (bar{b}3)
(b1) から変換 $$bar{z}, y, x+bar{z}$$ $$z+bar{x}, y, bar{x}$$ $$bar{z}, y, x$$ $$x+z, y, z$$ $$bar{x}, y, bar{x}+bar{z}$$
(b1) へ変換 $$z+bar{x}, y, bar{x}$$ $$bar{z}, y, x+bar{z}$$ $$z, y, bar{x}$$ $$x+bar{z}, y, z$$ $$bar{x}, y, x+bar{z}$$

 さて、主軸を(b) 軸ではなく(a) や(c) 軸にしたいという、さらにひねくれた人がいらっしゃるかもしれません。まず(a) を主軸とした時の6つのケースおよび変換の仕方を示します。

(a1) (a2) (a3) (bar{a}1) (bar{a}2) (bar{a}3)
(b1) から変換 $$y, z, x$$ $$y, x+bar{z}, bar{z}$$ $$y, bar{x}, z+bar{x}$$ $$y, x, bar{z}$$ $$y, z, x+z$$ $$y, bar{x}+bar{z}, bar{x}$$
(b1) へ変換 $$z, x, y$$ $$y+bar{z}, x, bar{z}$$ $$bar{y}, x, z+bar{y}$$ $$y, x, bar{z}$$ $$z+bar{y}, x, y$$ $$bar{z}, x, z+bar{y}$$

 最後に、(c) を主軸とした時の6つのケースおよび変換の仕方を示します。

(c1) (c2) (c3) (bar{c}1) (bar{c}2) (bar{c}3)
(b1) から変換 $$z, x, y$$ $$x+bar{z}, bar{z}, y$$ $$bar{x}, z+bar{x}, y$$ $$x, bar{z}, y$$ $$z, x+z, y$$ $$bar{x}+bar{z}, bar{x}, y$$
(b1) へ変換 $$y, z, x$$ $$x+bar{y}, z, bar{y}$$ $$bar{x}, z, y+bar{x}$$ $$x, z, -y$$ $$y+bar{x}, z, x$$ $$bar{y}, z, y+bar{x}$$

  1. 「space group一覧」ページでは、「Axis setting, Origin」 という列に記載しています。 ↩︎
  2. 同上 ↩︎
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